ベビーパウダー山崎

セプテンバーのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

セプテンバー(1987年製作の映画)
3.0
本作からウディ・アレンの低迷期というかシリアス期に入っていくわけで、当然のように配信もなくなりDVDを引っ張り出して見直さないといけなくなったり。
『ワーニャ伯父さん』を奪骨換胎しながら、母と娘の関係はベルイマン『秋のソナタ』。気を許すとすぐにベルイマンかフェリーニが顔を出すアレン映画。生きるのは厳しくて辛くて地獄だけど、それでも生きていくしかないからねぇ…という絶望に前向きなチェーホフの魂は、しっかりとドラマに植え付けられている。
「演劇でも通用するようなシナリオを書いた」とアレン、三幕のクライマックス、ミア・ファローが隠されていた秘密を告白するくだりは確かに強い、が、映画だとそれでも弱く見える。キャラクターの感情に沿ってキャメラが動いてしまうため、それから先の「映画的」な何かを期待してしまう。これが演劇なら、会話と台詞は映画以上にアクティブな意味を持ち、その役者の説得力で衝撃を与えることができたとは思う。その「言葉」一つで決めて落とせるのは演劇、映画はそうはいかない。演劇(戯曲)を映画にする難しさ、優れた演劇作家が映画を監督するとなると尽く失敗してしまうのも、このあたりに問題がある。
ファローは幼児虐待され精神に問題を抱えた中年女性役、アレン映画では報われないキャラクターばかり割り当てられ、本当にアレンと過ごして幸福だったのか…どちらかというと、ダイアン・ウィーストの方が美しく撮られているような気さえする。80分ちょっとであっという間、評判は悪いけど、このジクジクとした内向さは嫌いじゃない。