半兵衛

あなたの目になりたいの半兵衛のレビュー・感想・評価

あなたの目になりたい(1943年製作の映画)
4.0
雄弁に嘘か本当かわからない話を延々と繰り出す漫談スタイルのギトリ演出はそれまで今一つ乗れなかったが、プレイボーイ気取りは相変わらずだけれど病気になった主人公を通して老いや愛と向き合うというそれまでとは違う真摯な語り口を丁寧に紡いでいく芳醇な語り口に魅了され終盤に胸をうたれてしまった。それでいてスピーディーな演出スタイルは変わっていないというのも凄い。

ギトリ演じる芸術家と彼と恋愛関係に陥る若い娘が病気という難題に挑む後半の展開はよくある流れなのに、凡百のメロドラマとは違う格調と優雅さが感じられる作品に仕上がっているのがさすが。冒頭の美術館や家に飾られてあるフランスが誇る芸術家による美術品などといった本物志向のこだわりもドラマに風格をもたらす。

目が見えなくなるという表現をフィルムの画像の変化で表現する演出や、灯火のない暗闇状態の街でマッチの火を照らして歩く美しい演出など随所で使われる映像表現の冴えも◎。

自分の奥さんを含めて若い女優をよく使っているイメージのギトリだけれど、実は年齢を重ねた女優さんたちを使って巧みにドラマを盛り上げるのが上手い作家でもあることに気づいた。本作でもヒロインよりも酒場の淑女歌手や盲人を指導するおばさんが存在感を発揮しており、甘くなりそうなドラマにスパイスを与えてバランスを上手く取っていたりする。特に盲人指導の方はスピンオフ作れるんじゃないかと思うほどにいいキャラしていた。

ジョークを押さえて敢えてしっとりと纏めたラストもいいね。
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