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それいけ!アンパンマン いのちの星のドーリィのtubure400のレビュー・感想・評価

3.5
ドタバタコメディの中にも「家族愛」というテーマがある『サザエさん』と比べた時、『ちびまる子ちゃん』の精神性の低さのようなものに毎週日曜日は辟易してしまう。国民的なアニメとして、『アンパンマン』には他にない精神性の高さがある。とはいえ一話15分のアニメではそこを描くのには限界があるだけに、映画版はさぞ素晴らしいのだろう、と思っていたけど、これは期待を越えて良かった。

『アンパンマン』の根底にある哲学的なまでの「なんのために生まれてきたのか」という問いに迫る内容だった。アンパンマンにはドラえもんのような人間臭さや茶目っ気のようなものはない。アンパンマンにあるのは、一言でいうと、宗教的なまでの、崇高な高潔性だ。「人間臭さや茶目っ気」のような部分が増幅されたポストー大山のぶ代時代のドラえもんが、人間の動物的な感情にのみ訴えるような内容になっていったことを思い出してみよう。「ドラ泣き」においては、泣くことが目的化している。それはいわば人間の感情の複雑性を、泣ける、という一点だけにフォーカスして縮減するような行為だ。「泣ける」ストーリーが、「泣ける感じの」BGMに乗せて、可愛らしい(個人的にはグロテスクでしかないと思うのだが)3Dで表現されれば、普通の人なら「泣く」のは当然の話だ。ただ、普段の生活でそういう局面に立たされて「泣く」ことはそうはないだろう。普段経験しない感情を、体験出来る、というのが「ドラ泣き」の売りだ。感情操作の商品化。全ての体験は商品化されている。本当に豊かだった藤子F不二雄の世界が、そういう風な使われ方をしている事に対して違和感を覚える層が多いのは当たり前だと思う。冒涜、とさえ言ってしまいたい。

『アンパンマン』映画におけるアンパンマンは、基本的に普段と何も変わりない。やなせたかしの作り上げた世界への尽きせぬリスペクトが感じられる。映画のお約束的なハラハラドキドキは当然あるけれども、感動的な場面のBGMが男性テノールの「アンパンマンのマーチ」だったり、ちょっとズレてるところが愛らしい。何より、15分の時間の縛りのなかでは語り尽くせないことというか、普段講義でしか合わない先生と飲み会でいつも以上に深い話が出来た時の嬉しい気持ちというか、アンパンマンというかやなせたかしの内奥に触れ得たような、それこそ素晴らしい体験だった。
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