三樹夫

Kids Return キッズ・リターンの三樹夫のレビュー・感想・評価

Kids Return キッズ・リターン(1996年製作の映画)
4.0
バイク事故後のたけし監督復帰作。分かりやすいストーリーで、新しい出発の印になるシンプルな映画を目指したもの。事故から回復してレギュラー番組に復帰するも視聴率は下がり、たけしはもう終わったという評すらあった中での渾身の一発。「まだ始まっちゃいねぇよ」はまだ始まってすらいなかったのか、それともこれから始まるのかは観る者に委ねられる。

ボクサー、ヤクザ、サラリーマン、漫才師の若者が登場するが、これはすべてたけしの分身だ。たけしは中学生になるとボクシングジムに通っていた。漫才師に関しては言うまでもないだろう。ヤクザはもしかしたらそうなっていたかもしれない自分、サラリーマンはもし自分がサラリーマンならこんな感じだろうという、どれもたけしの分身になっている。漫才師がこの中ではその道でわりかし希望のある描き方がされているが、それは本人が漫才師として大成功したためだろうか。最初と最後の寄席のシーンで漫才しているときのボケ方がたけし風のボケ方で、ボケとツッコミの立ち位置は逆なもののツービートのような漫才をしている。
なぜ漫才師の二人がその道において希望ある終わり方になっているかというと、彼らは脇目も振らず漫才だけに打ち込んだからだ。

すごい嫌なヤクザの組長とボクシングの先輩が出てくる。組長はいい人風に思わせておいていざとなったらすごく冷酷なのが余計に嫌な感じを醸し出す。まあいい人がヤクザなんかやってるわけないし。
才能のある若手を潰すボクシングの先輩は、浅草時代にいた伸び盛りの若手を連れ回してダメにしてしまう漫才師の先輩がモデルとなっている。自分の勤め先の工場のおっさんにはペコペコするなど細かいところで嫌さが際立つ。ボクシングや漫才に限らず、どこにでもいそうな若手潰しの嫌な先輩だ。

この映画は引き算によって作られており、省略に次ぐ省略で見せていく。説明的なことは行わず、カットを割ることで余計なものは描写しないがしっかりと伝わるし、笑いも引き起こす。
バカばっかり出てくる映画で、笑いの演出がキレキレだ。ボクシングは反則技のオンパレードの外道戦法で、ジムも積極的に反則技の練習させているのは笑う。学校でも主人公二人に教師がとんでもなく冷たく接していて笑ってしまう。バカな若者が自分たちなりに頑張っている様を、ドライながらもどこか優しく見守っている映画になっている。

「ガキがビール飲んじゃいけねえっつう法律でもあんのか」「あるじゃねえかよ」
三樹夫

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