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白痴のunkoのレビュー・感想・評価

白痴(1999年製作の映画)
3.6
原作「白痴」坂口安吾
青空文庫で読めます。

伊沢(浅野忠信)は戦時中の放送局でADとして勤めている。
学生映画を製作していた過去があり芸術の独創を信じてはいるが、社内の上司や周りは権力に屈するばかりで考えることをしないまま番組が制作されていく現状に諦めを抱いている。
ある日、白痴の女性サヨ(甲田益也子)が部屋に入ってきて、奇妙な同棲生活が始まる。

原作に神話や現在のテレビ局で働くアイドル/スタッフなど大胆な脚色を加え、戦争に合わせて破壊と再生のイメージをうまく融合させた。(いきなり創世記バベルの塔ドーンはある意味笑える)
白痴というタイトルなだけあり、登場人物の殆どが考えることを放棄している。主人公伊沢自体も戦時中の映画(芸術)の抑圧にうんざりしており、
何度も自殺を図るが悉く失敗する。生きてはいるのだが、死んでいる。
テレビ局でもてはやされているアイドル銀河(橋本麗香)が歌って踊るシーンのVFXは当時としてはかなり凄いのではと感じた。
踊りもインドっぽくてGOOD。銀河の過去も途中で話されるのだが、混血だったのかな。

後半「俺の肩にすがりついてくるがいい。分ったね」からの炎のトンネルみたいなシーンはとても綺麗だった。
しかし度胸も覚悟もない伊沢が成り行きで唯一手に入れたこの白痴の女は終戦した後、どうするのだろうか。捨てる度胸もないのだろう。
その後、夢かイメージ内で、顔のない石である白痴の女と融合する伊沢。神々(戦争)により破壊され再生される世界。
イメージのとおり、伊沢は白痴のサヨと成り行きのまま生活を送っていくのだと考える。
果たして終戦後検閲を潜り抜ける映画を製作する活力があるのだろうか。
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