えそじま

泥の河のえそじまのレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.3
「あのとき少年時代は終わった。今、痛みの源流に遡りたい」

高度経済成長期における社会底辺の泥濘を純粋無垢な子供の視点から描いた人間ドラマで、日本アカデミー最優秀監督賞、さらには82年アメリカアカデミー外国語映画賞にもノミネートされた小栗康平の初監督作品。

世間に蔑視されながらも開き直ることなくただ生きる為の恥辱を噛み締め静かに暮らす宿船の家族と、それを客観的に見つつ感情を投影していく対岸食堂一家の交流。
日本人なら誰でも持っている戦後原風景のイメージと少年期の記憶(性の目覚め、好奇心、残虐性、別れ)を抱き合わせたネオレアリズモ的哀愁が、終戦を迎えても何ら変わることのない"社会底辺の死生観"といった重いテーマとはおよそかけ離れた、淡い記憶の映像美にのせて描かれる。

"子供視点で描かれる資本主義経済の暗部"は小津安二郎の「東京の宿(1935年)」、成瀬巳喜男「秋立ちぬ(1960年)」などそのほか国内外問わず数ある巨匠から扱われてきた技法だが、世界的にみても本作の完成度は同系譜作品の中でトップクラスにあると思う。

魔性な異彩放つ加賀まりこのインパクトよ。
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