ロベルタ・トッレといえばヴェネツィアで観た『Sud side stori』(2000)が頭にこびりついている。、題名からわかるように『ウエスト・サイド物語』(1961)のパレルモ版ミュージカルだり、移民の娼婦とプレスリーに憧れるパレルモの兄ちゃんによる「ロミオとジュリエット」話。あまりにも面白かったのだけど、けっきょくは日本に来ず。でも、彼女のデビュー作でマフィアをテーマにしたラップミュージカル『死ぬほどターノ』(1997)が、2001年のイタリア映画祭で上映されたんだよね。
というのも映画のタイトルは「もらえなかったキス(I baci mai dati)」。少女マヌエーラは、そんなに愛らしい肌をしているのに、本当に欲しいキスをもらえずにいる。だからこそ、オーデションで選ばれたカルラの顔のアップが映画の鍵となる。なにしろ聖母マリアの声を聞いた奇跡により、この地区の「小さな聖人」となった彼女の面持ちは、人々がみずからの悩みを打ち明けるにふさわしいものでなければならない。ただ服装を、神父の指示に従って、それらしいものに着替えさせるだけでは足りないのだ(とはいえ、映画では着替えさせるところが笑えるのだけど...)。
この「小さな聖人」というのは、デ・シーカの『自転車泥棒』でも重要な役割を果たしている。お金がないからこそ、なけなしを小銭を払って神頼みをするのは万国共通なのかもしれない。だから、それまでリブリーノという街の美容室でタロット占いをしてきたヴィオラは、マヌエーラという「小さな聖人」の出現によって、しばらく仕事がなくなることになる。このヴィオラを演じているのが、ピエラ・デッリ・エスポスティ。彼女の存在感もまた記憶の残る。原色のけばけばしい美容院で、女性たちの頭を、外だけじゃなくて中も整えてあげているのよと、じつに大袈裟な演技で、それでいてゾッとさせるようなリアリティのある美容師ヴィオラのシーンは、『死ぬほどターノ』や『Sud side stori 』を思い出させてくれて、じつにロベルタ・トッレ節が炸裂する場所。