まぬままおま

ダークナイト ライジングのまぬままおまのレビュー・感想・評価

ダークナイト ライジング(2012年製作の映画)
4.0
「フロアの床には奈落が映し出されていた。そこに落ちたら無限に落下していきそうな闇だ。若者たちはその上空の虚無で踊っている」(p.172,伊藤計劃『虐殺器官』)

現代の的確な描写としてとても好きなのだが、本作にも奈落がある。それはブルースが敗北し、死に正しく恐怖することを学び、這い上がるための舞台装置として。何か感心した。ちゃんと奈落があると思って。けれどスクリーンに穴が空いているわけではない。引用と同じ「映し出されていた」だけだ。それならやっぱり私たちはイメージとしての虚無の上で踊るしかできない…?

内戦だ。アメリカ内部で起こりうる戦争を描いている。金融システムの単なる数字が崩壊し、ギャングと軍需産業が結託し、警察や司法制度が機能しない果てに起こりうるこの戦いを。

バットマンは奈落にいるからこの内戦の埒外にいる。それなら私たちはヒーローなき世界で、私企業がつくった核爆弾に怯えて、来るべき内戦に恐怖することしかできない…?

そうはいってもバットマンは戻ってこないといけないし、アン・ハサウェイ演じるキャットウーマンと協力して、破滅から救わないといけない。味方の裏切りとかまたかよ…と思ってしまったし、ラストもアメリカ国民の総体ではなく、バットマンに解決を求めるあたり、だから内戦は起こりうるんだと思ってしまった。だが、まあいいんです。私は続編みたいです。
けれどそうも言っていられないとも思う。戦争の足音が近づいているし、現に起こっている。そんな不穏さが私の胸中にはある。

引用文献
伊藤計劃(2007)『虐殺器官』早川書房

蛇足
本作には「裁判」の描写がある。ノーランの思い描く「裁判」のイメージはおそらくこんな感じなんだろうな。様式はあるけれど全てがでっちあげ。『オッペンハイマー』に通ずる部分がある。けれどシーンとして描写するあたり、「裁判」自体は信じているのかもしれない。それでも法は必要だし、それに則り人間が過程を踏んで、裁きを下すことを。
あとは「老いること」ですね。身体のことを扱っているのに内臓があることを確認できるのは聴診器のみ。でもそれはノーラン作品らしい。