そーた

5デイズのそーたのレビュー・感想・評価

5デイズ(2011年製作の映画)
2.9
ずるいやり方

指 桑 罵 槐(しそうばかい)
という言葉があります。

桑を指さして槐(えんじゅ)を罵る。

ある対象をおおっぴらに批判しているように見せ、実はその後ろに隠れた別の対象を批判するという古代中国の兵法書の言葉。

この映画は何だかそんな感じの映画でした。

レニー・ハーリンがこの映画を企画したのか、
はたまたこの映画に監督としてただ起用されただけなのかは分からないけれど、
どちらにしろその選択が正しかったのかは疑問でした。

戦争映画の皮を被った娯楽性を、レニー・ハーリンの手腕というべきなのか。

良くも悪くも、
またもやプロパガンダ。

同一の戦争をテーマに持ったロシア製の『オーガスト・ウォーズ』と比べ、
若干の大人げなさを感じてしまいます。
 
南オセチア戦争をグルジア側の視点で描くという建前で、結局はロシアを悪し様に言うための道具と化した悪意。

ロシア側の肩を持つつもりは決してないんだけれど、
オセチア軍の悪行に対する批判を上手いことロシアへ向けさせる高等テクニックとして、
映画作りのノウハウが大いに使われた感があります。

中立の外国人ジャーナリストを戦場に送り込んで、彼らにオセチア軍やロシア軍の違法行為を目撃させるというスタイルにロマンスと悲壮さを漂わせて、仕上げとして主人公に圧倒的なヒーローを演じさせれば、
もう観客を味方につけたも同然。

ド派手なアクションを得意とするレニー・ハーリンの爆発シーンは相変わらずの見応えですが、
やはり彼は社会派の戦争映画よりもコテコテのアクション映画との親和性が高いんだと痛感してしまいました。

冒頭の入り方に臨場感が凄くあってとても良かっただけにすごく残念。

ただ、映画でも描かれているけれど、
オリンピックの裏でこのような殺戮が現に起きていたという事実を知ることができたのはこの映画の手柄。

最初に「戦争映画の皮を被った娯楽性」と表現をしたけれども、戦争の血生臭さや狂気を描いたシーンは気楽な気持ちで見ることはできない。

だからこそ、その描写を目にすれば"桑"ではなく"槐"に対して怒りを覚えてしまうように綿密に作られたプロパガンダを、僕たち観客は手放しで受け入れるべきではないと思う。

シリアでアサド政権を支持し、
北朝鮮の無法を擁護したりと、
ロシアの国際社会での腹黒いやり方に批判的になるのもわかるけれど、
この映画を見てロシアへの批判意識が高まり世界が中立性を欠いて二極化してしまう事の方がより危険な気がしてしまう。

オセチア軍の違反行為はそれはそれで追求されるべきもの。

当時、ロシア側が例えそれを野放しにしていたにしろ、
映画という影響力を駆使しロシアを批判する手法はフェアーではない。

そしてそれは『オーガスト・ウォーズ』を作ったロシア側にも言える事。

プロパガンダ映画を批判はしないし、
楽しんで見てしまう事だってあるけれど、
やはり見る側は良識を持って接したいものです。

桑は桑で、槐は槐で、
別個で批判すれば良いだけのこと。

ずるいレニー・ハーリンは見たくなかったな。

うん、ロングキッスグッドナイトを見直そう。
そーた

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