◎ジャック・タチ風あいうえ姉妹に翻弄musical
1964年 83分 カラー 東宝 シネマスコープ
*少し色褪せしているかもだが特に問題なし
タイトルからして、鮮やかな原色で塗りつぶし、横半分に切ったスペースに車を走らせるなど、グラフィックデザインに凝った作品であることを宣言。
主人公たちの住む高村家は、見事な左右シンメトリーで、配色といい、デザインといい、赤い風船を持った少年が通り過ぎる様といい、ジャック・タチの『ぼくの伯父さん』(1958年)のエピゴーネンであるらしいと感得される。
【以下ネタバレ注意⚠️】
この家の住人は、4姉妹と弟1人の5人の未婚きょうだいと千石規子演ずる八丈島出身の家政婦(後に姪の中尾ミエが加わる)。
きょうだいの内訳は、順に、
◇長女 綾子 越路吹雪 デザイナー
◇次女 郁子 淡路恵子 生花の先生
◇三女 歌子 岸田今日子 テレビ脚本家
◇四女 悦子 横山道代 大学生?
◇長男 修 坂本九 大学生?
と、あいうえお、と並んでいる。
彼女たちを早く結婚させねばと使命感に燃える叔母たち(京塚昌子と南美江)の斡旋で、4人の姉妹たちは、合同見合いをおっぱじめ、互いにしのぎを削るという、ナンセンス・コメディ。
何と言っても印象に残るのは、オールセットによる、グラフィックでシャレ乙なデザイン。
人物配置含めて、いちいちシンメトリーにこだわる様は、グリーナウェイを先取りしたかと思われるほど。
このデザイン優先のコンセプトは、コメディ演出としても発揮され、きょうだい達が結婚問題に悩んで白い楕円形(だったかな?)のテーブルに突っ伏すと、次の瞬間、そのテーブルがS字型に変形したりする。
見合い相手は、
◇青島幸男 マザコンのお坊ちゃん片山
◇森雅之 独身主義のナイスミドル井沢
の2人だったが、井沢の友人
◇神山繁 ハワイ育ちの日系二世ポール岡村
が、彼女たちがバカンスを過ごす八丈島に現れ、ダークホースとして、恋人候補の鞘当ての対象となる。
マルチタレント青島幸男が、1995年、参議院議員から都知事に立候補し、世界都市博の中止を訴え、石原慎太郎らを破って当選して公約を果たしたことで記憶されたのも今は昔(その後は知事としての成果は乏しく二期目は立候補せず石原が当選、2006年に死去)。
この頃、すでにフジテレビの『おとなの漫画』(1959-64)、日本テレビの『シャボン玉ホリデー』第一期(1961-72)などの構成作家及び出演者として人気者となり、何よりも1961年の『スーダラ節』の大ヒットで時代の寵児と持てはやされていた。
ただ、今、本作に出ている姿だけ観ても、ハンサムでも演技が上手いわけでもなく(歌手勢の出演者、坂本九や越路吹雪は劇中で歌わないが演技者として普通に上手い)、一体何で出演しているのか分からないだろう。
時代の流行り廃りというものは、所詮そんなものなのかも知れない。
閑話休題。
本作のもう一つの見どころはミュージカル仕立てであること。
八丈島のレストランで、4姉妹が、ポールの気を引こうと、
◇パーカッションバンドによるサンバ(だっけ?)
◇同じくパーカッションによるタンゴ
◇同じくパーカッションでのメキシカン
◇ベースメインの渋いジャズ
にそれぞれ乗せて、最新モードのファッションに身を包んで、取っ替え引っ替え、ポール相手に踊るのだ。
宝塚出身の越路はじめ、女性陣のダンスは様になっているが、今や会社の重役か、政治家の役しか演じない神山繁が、長い手足を持て余し気味にぎこちなく踊る様が観られるのは、珍作ならではの特典と言えよう。
はじめは、長身ハンサムで英語がペラペラなポールにぞっこんだった4姉妹。
ところが、読んでいた英語の本が、ガールハントのガイドブックだと知ると、
「たんなる女好きじゃない!」
と逆ギレ。
にわかに奇抜な化粧といでたちに変じてポールの前に現れ、乱暴な言葉遣いで、ボーイに無理な注文をしたり、ポールを引き摺り回したりして「復讐」を遂げる。
この四者四様の奇体な姿をした彼女たちによるハッチャケぶりが、本作いちばんの見ものかも知れない。
越路がブラックフェイスで登場するのは今なら禁じ手でいただけないが、いちばん傑作なのは横山道代。
きゃりーぱみゅぱみゅか、あのちゃんか、はたまたブリアナ・ギガンテか、といった奇妙奇天烈な化粧で現れ、
「きゃっ、きゃっ」とか、
「パッパピー」とかの
言葉ではない音声を発する。
たぶん、元ネタは『ホフマン物語』の機械人形オランピアあたりなんだろうが、一応、奇抜でも人間の体を成している三女までと違い、彼女だけは男に相手にもされない。
ラストエピソードは、髭ズラ編集者の名古屋章が、テレビ脚本家の岸田今日子にいたぶられる一幕。
名古屋が、黒人奴隷のつもりなのか、またブラックフェイスで仮装する妄想シーンがあった。
とまぁ、全編、ジャック・タチ風のシャレ乙なファッショニスタ・ミュージカルコメディ。
もともとテレビ番組だったものから映画になったようで、若干、テレビ的な安いお笑い要素もなくはないところが瑕瑾だが、今でも充分に通用するレベルのお洒落なコメディだ。
カンヌにも充分出品できるはずだ。
(松本人志の諸作品より、相当品と質がいい。)
ミュージカル仕立てなので、このまま舞台版として上演することも可能ではなかろうか。
もっと知られて、再評価されて然るべき作品だ。
《参考》
*1 「男嫌い 映画」で検索
ja.m.wikipedia.org/wiki/
*2 男嫌い(1964)
1964年2月1日公開
moviewalker.jp/mv21118/
*3 日のあたらない邦画劇場
男嫌い
home.f05.itscom.net/kota2/jmov/1997_01/970131.html
《上映館公式ページ》
生誕百年 女優特集・第2弾
〈宝塚歌劇出身の2大女優〉
越路
吹雪と淡島千景
2024.4.29〜6.7 シネ・ヌーヴォ
www.cinenouveau.com/sakuhin/koshijiawashima/koshijiawashima.html