パングロス

虎の尾を踏む男達のパングロスのレビュー・感想・評価

虎の尾を踏む男達(1945年製作の映画)
2.8
◎黒澤による能「安宅」歌舞伎「勧進帳」オペラ化

1945年 東宝 59分 モノクロ スタンダード

たぶん再見だが記憶はない。

歌舞伎の「勧進帳」はあまりにも有名だが、現行の形は五代目市川海老蔵(七代目團十郎)が能の「安宅」にかなり忠実に歌舞伎化したもの。

黒澤は、それを基本的には能「安宅」をベースとして、部分的に歌舞伎版を取り入れながら1時間以内の映画に仕立てた。

能の謡(うたい=コーラス)の部分を、服部正の作曲による合唱に置き換えているから、ある種の古典作品のオペラ化の試みだと言っても良い。

「虎の尾を踏み」や「逃れたる心地して」の詞章がフーガの形式で歌われるところは多少面白かった。

ただ、原作を映画化するのであれば、何らかの意味で、原作より面白くなっていなければ意味がない。

ところが、チャリ(道化役)として導入したエノケンの地元強力はうるさいだけで、本筋からすればノイズでしかないし、勧進帳読み上げ、山伏問答はあっても、能や歌舞伎ほどの緊迫感も感じられない。

とにかく、優れた上演で歌舞伎の「勧進帳」に接すれば、次々と起こる丁々発止のやり取りや緊迫した押し問答、弁慶の酔いっぷりと延年の舞の面白さ、すべてが無事に終わっての幕引きの飛び六法と息つく間もないほど密度の濃い面白い舞台作品だと感服するはずだ。

本作では、敵方の関守富樫を、温情派の富樫=藤田進と糾問派の梶原使者=久松保夫の二人に分けている。
ある種の合理化ではあろうが、原作の緊迫感を削ぐ原因ともなっている。

また、終盤の弁慶一行への富樫からの酒振る舞いの場で、使者のみが登場し、富樫本人が出ないのは艶消し。
その上、肝心の延年の舞をカットしたのは、まったくいただけない。

振る舞い酒で、機嫌良く酔い、お得意の延年の舞を披露したかに見せておいて、義経一行らに「とくとく発てや」と素早い逃走を促すところが、原作の能や歌舞伎の最後の眼目なのに、そこを丸々カットしてしまい、拍子抜けした。

要は、弁慶を演じた大河内傳次郎は、新国劇出身のため、重厚な時代の演技はできても、歌舞伎役者必修の舞踊や荒事(本作では飛び六法)はできないゆえの選択ということなのだろう。

弁慶の代わりに、エノケンの飛び六法を見せられても、どうにも締まりがないのであった。

《参考》
*1 「虎の尾を踏む男たち」で検索
ja.m.wikipedia.org/wiki/

*2 虎の尾を踏む男達
1952年4月24日公開、59分
moviewalker.jp/mv23262/

*3 歌舞伎の「勧進帳」をもとに制作された黒澤初の時代劇映画|『虎の尾を踏む男達』【面白すぎる日本映画 第62回】
文・絵/牧野良幸
2022/1/23
serai.jp/hobby/1057470

《上映館公式ページ》
京都府京都文化博物館
映画に見る平安時代
Date
2024.5.10(金) 〜 5.31(金)
www.bunpaku.or.jp/exhi_film/schedule/
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