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誘惑のアフロディーテのtakのレビュー・感想・評価

誘惑のアフロディーテ(1995年製作の映画)
4.0
世の中、知りたくてしかたないこともある。知らなくていいこともある。でもその好奇心が思いがけない出会いをもたらし、人生にいたずらをもたらしてくれる。時におもしろ可笑しく、時にシリアスに、時に皮肉たっぷりに男と女について考えさせてくれるウディ・アレン先生。この「誘惑のアフロディーテ」は、そのバランスが実に見事。

妻が養子をとりたい、と言い出したことに最初は渋っていた主人公レニー。だが養子にした息子がとても優秀だと感じ、その母親がどんな人物だか興味が日に日に高まっていった。いろいろ探っていくうちに、母親たる人物は元ポルノ女優の娼婦リンダだと知ることになる。レニーは彼女がまっとうな人生を送れるように世話を焼き初め、一方で妻との間では離婚の危機が・・・。

アレン作品では、舞台劇風な演出で物語の語り部が登場したり、主人公にアドバイスをする不思議な存在がよく登場する。最近なら「ローマでアモーレ」のアレック・ボールドウィン、古くは「ボギー、俺も男だ!」のハンフリー・ボガード風な人物。「誘惑のアフロディーテ」ではギリシア悲劇オディプス王の物語を演ずる人々(F・マーリー・エイブラハムが怪演)が、リンダに深入りするなと何度も忠告する。この客観的な視点が加わることで、観ている僕らには事態が悪くならないのか?この先いったいどうなるのか?という不安と期待が高まってくる。

主人公レニーがリンダを娼婦をやめさせてまっとうな暮らしを送れるように奔走する姿は、まさにギリシア神話に出てくるピグマリオン。「マイ・フェア・レディ」や「プリティ・ウーマン」に形を変えて今も語り継がれる物語が、ここでもしっかりと継承されている楽しさ。

ギリシア悲劇という高尚な題材を加えつつも、映画の中で飛び交うのは極めつけのエロ話。このギャップがたまらなく面白い。そしてオスカーを受賞したミラ・ソルビーノの強烈なキャラクター。アレン先生の女優を輝かせる手管はどの作品でも素晴らしい。そしてラストシーンの何とも言えない切なさ。この結末が、クライマックスまで暴走気味だったこの映画のストーリー見事に着地させてしんみりさせてくれる。
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