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ドラゴン武芸帳のJAmmyWAngのレビュー・感想・評価

ドラゴン武芸帳(1972年製作の映画)
3.7
1970年の初監督作品『吼えろ!ドラゴン 立て!ジャガー』、そして翌1971年の『片腕ドラゴン』および同年の今作に至るまでの三作は、まだジミー・ウォング先生のイマジネーションにもある種の手堅さが見て取れるという印象を受けます。

象徴的なのは今作におけるゾンビ・ファイターの存在で、結局その正体はラスボスに遣わされたただのオッサンだったという事であり、そこには映画内における因果性や脈絡という規範をベースとした演繹的着想という性質が垣間見えるように思います。

一方で後の『神拳大戦快鎗手(Return of the Chinese Boxer)』や、(名義は「製作」だけど)『ドラゴン特攻隊』などにおいては、ジミー・ウォング先生は嬉々として本物のゾンビや幽霊を躊躇なく投入していたりと、あらゆるアイデアの突拍子も無い有り様に想像力のエネルギーが渦を巻いている様相を感じるワケです。

今作はそうしたジミー・ウォング後期作品の、「面白さ至上主義」の為に脈絡的連関を捨象したイマジネーションの絶対的強度というものにおける、初期段階としての形象なのかもしれないなあと思う次第でありました。

とは言え、アイデアとしてのまさにジミー・ウォング先生的な、純粋でいびつなギミックそれ自体の表出については、回数が少ないながらもやはり尋常ならざる何かを感受せざるを得ないワケで、ジミー・ウォング先生は最初からジミー・ウォング先生なのだと思わせられる事もまた事実ではある。

いずれにしても、ジミー・ウォング先生が「イマジネーションと脈絡」、あるいは「超現実と現実」という関係性を、映画という表現の中でどのような推移を伴って捉えていくのかという軌跡を辿るに当たって、今作は明らかに初期作における一つの区切り目として位置付けられるであろう事から、その意味で70億を超える全人類の中の数百人にとって非常に重要な作品である事は疑いようが無い。
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