スギノイチ

迷走地図のスギノイチのレビュー・感想・評価

迷走地図(1983年製作の映画)
3.0
80年代の大作というのは概ねそうだが、とにかく登場人物が多く、且つ各々がメインキャスト級なので目が回る。
クレジットは勝新がトップだが出番はそう多くなく、実際は誰が主演なのか分からない。
前半は渡瀬恒彦がイニシアチブを握っていたが途中で死ぬし、寺尾聰というのも違う。
津川雅彦のピカレスクに思えなくもないが、それにしては出番が少ない。
誰視点なのか漫然としたドラマが延々続き、陰謀!人間の欲望!みたいなのがどどんと打ち出されて終わる。
「だから何?」感が否めない。
山本薩夫の政治系映画もやたら登場人物が多かったが、決して散漫ではなかった。
今思えばあの整理術は凄かったのだ。

一方、持て余し気味ながら女優陣はみんな生き生きとしていた。
フィルモグラフィを見ても、70年代後半からの野村芳太郎は男より女を撮る方が好きだったのかもしれない。
岩下志麻は通産大臣(勝新)の妻だが、明らかにアドリブと思われる勝新の奇行を毅然と躱す演技は色々とハラハラする。
松坂慶子は相変わらず愛人感丸出し演技だが、散々男たちを振り回しておいてその実、早乙女愛との百合関係を拠り所にしていたのは男性嫌悪的バックボーンを感じさせる。
いしだあゆみは出番は少ないにも関わらず、『駅 STATION』『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』『野獣刑事』の余波と言わんばかりに不幸オーラを全開にしている。
ただ損をしていたのは中島ゆたかで、ずっと着物姿で特に何を喋るでもなく意味ありげにフレームインしていたのだが、ようやく言葉を発したと思ったら極妻みたいなコテコテの関西弁を喋って終わりだった。

とはいえ、勝新と渡瀬恒彦が同じ画面にいるというのはそれだけで拝礼に値する。
「若山富三郎と渡瀬恒彦」「渡哲也と勝新太郎」という組み合わせは映像作品・逸話ともにいくらでもあるが、「勝新と渡瀬恒彦」なるとこれはレア。
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