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アレクサンドリアのナツのレビュー・感想・評価

アレクサンドリア(2009年製作の映画)
3.7
2009年公開のスペイン映画だが全編英語
『アレクサンドリア』4世紀に実在した
女性天文学者ヒュパティアの探究と運命、
キリスト教と他教徒の争いとを共に描く

カトリックの多いスペインでこれを作る
監督の意気込みにまずは感服したくなる
視点が常に反キリスト教側から描かれ、
キリスト教徒たちは学問研究を妨害し、
人類発展の歩みを頓挫させんとする暴徒
として一貫しているからだ。

学問の象徴たる図書館の長を父に持つ
女学者のヒュパティアは多くの弟子に
講義をしながら天体の動きの謎に迫る。
しかしキリスト教徒たちと古代の神々を
信奉し学問研究を重ねる人々との争いは
日に日に激しくなってゆく。
(この辺りの描写は若干キツい)
キリスト教徒たちの手が図書館にも及び
多くの書物が焼かれ改宗する者もいる中
彼女は学問研究を続け、ひとつの真実に
辿り着くが、暴徒化したキリスト教徒は
彼女を魔女として糾弾する…

圧倒的な重厚感とスケール感が歴史もの
らしく、画面作りやセット、衣装などの
美術的にもこだわりが見える。

キャスティングも文句なくハマっており
特に主演のレイチェル・ワイズがいい。
知的で柔軟な思考力を持ち、少々頑固で
誇り高き才媛を堂々と演じている。
“女は男に付き従え”と迫るキリスト教に
立ち向かう凛とした表情が素晴らしい。

史実では映画以上に悲惨な最期を遂げる
ヒュパティアだが、この時代に男性より
高い見識を持って、地動説に辿り着き、
天体の楕円軌道を発見し、さらには船の
実験で慣性の法則まで気付いている!

彼女の研究成果などアレクサンドリアに
かつて存在した知の結晶を蹂躙破壊した
キリスト教徒の罪は重い。
科学の進歩はおよそ1000年停滞した。
無意味な聖書至上主義によって!!

もちろんその一方で、ヒュパティアの
奴隷制度に疑問を抱いていないという
負の側面も描き、彼女付きの奴隷が
キリスト教徒になる展開になっている。

この年のスペイン映画興行収入で1位、
それも納得のシナリオとなっている。
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