千年女優

ポエトリー アグネスの詩(うた)の千年女優のレビュー・感想・評価

5.0
右腕のしびれと物忘れを案じて訪れた病院で中学生の娘を亡くして泣き叫ぶ母親を目撃した初老の女性ヤン・ミジャ。古いアパートで孫のチョンウクを単身育てる彼女が、趣味として詩を習い始めるも書くべき事を見つけられずにいる中で発覚した二つの事実、自身のアルツハイマーと孫の起こした輪姦事件に苛まれる様を描くドラマ映画です。

『ペパーミント・キャンディー』以降の監督作品が国際的に高い評価を獲得し続けるイ・チャンドンが次作『バーニング』にも連なる「書き出せなかった者が世界に触れて遂に書き始める」物語を密陽女子中学生集団性暴行事件に着想を得たシナリオで描き、カンヌ国際映画祭では二作続けてのパルムドールの候補となり脚本賞を受賞しました。

「書く」という行為は容易いようで「見る」や「触る」といった原初的なそれとはまた異なり、無駄な事はいくらでも書けるのに本当に書くべき事を書くのはとても難しいものです。本作は寡作な映画作家である監督自身の矜持を「物語」で見事に表現した作品だと言えます。声にならない声こそを描く。実に、イ・チャンドンらしい作品です。
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