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さらば、わが愛 覇王別姫のyadokariのネタバレレビュー・内容・結末

さらば、わが愛 覇王別姫(1993年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

普通にこれは大河ドラマだから3時間近くの映画。前見たときはTVだったのか、あまり覚えてなかったな。ただ京劇と中国の歴史を重ねた映画だと思っていたがちょっと違った。

レスリー・チャンの主人公は売春婦の母に捨てられて京劇の養成所(中国雑技団のような訓練所)に入って兄弟子の段小樓(トァン・シャオロウ)との『覇王別姫』でコンビを組みそれが話題となる。中国戦国時代の話で漢に滅ぼされた楚の王の物語で愛人である別姫が運命を共にするという「四面楚歌」の四文字熟語の演劇なのだが王が項羽だったとは後で知った。京劇は狂言的な喜劇的部分があり、王を演じる段小樓は喜劇役者として現実と芝居(虚構)を客観的に分けて考えているのだが、レスリー・チャン演じる程蝶衣(チョン・ティエイー)は虚構と現実の境目がなく、役そのものになりきってしまう。それは京劇こそが我が人生というような、居場所だったからである。

その居場所が中国の変遷の歴史で四面楚歌的になっていくメタフィクションとして、二人の関係と段小樓の妻となるコン・リーの三角関係の恋愛悲劇が絡んでくるのだ。

コン・リーの妻は元売春婦で、蝶衣の母と重なる。それは母の憎悪的な部分もあるのかもしれないが、なによりも男だった自分を捨て、女になることで京劇役者として生きる道を見出したので、嫉妬の感情がすごいのだった。二人で『覇王別姫』を演じることが彼の居場所だったので、実際の王と愛人の関係だったわけだった。

日本の占領時代に将軍にその芸が気に入られたことや京劇のバックアップ者である袁世凱に気に入られて占領時代を生き残るが、逆に中国が共産党の国になると京劇が批判されることになる。その中での三角関係なのだが、次第に妻である菊仙(チューシェン)も同じ運命を辿ることになるのだが、裏切るのは段小樓なのだ(二人を共産党に売るような形になる)。そのシーンが文化大革命時代の弾圧で映画でも見せ場となるところなんだが、結局特別な才能が大衆によって弾圧されていくという共産主義の嫌な部分を見せられるわけで、そのなかで「四面楚歌」として闘っていく蝶衣の姿はレスリー・チャンとの闘いでもあったと思わせるような迫真の演技だったのだ。日本で言えば玉三郎が自己批判させられるような。まあ一番はレスリー・チャンの演技なのだが、段小楼を演じる喜劇役者としての一面で張豊毅時代を上手く渡り切っていくようだけど妻を失い、最後に『覇王別姫』そのもののシーンとなるわけだった。こういう劇中劇が本筋に影響を与えていく展開が見事なのである。あと捨て子として育てた弟子に裏切られるシーンもあったりして演出山盛り展開だった。その分長く感じてしまう映画かも。
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