あさひ

エンジェル・アット・マイ・テーブルのあさひのレビュー・感想・評価

5.0
大傑作だと思う。
『ヤンヤン 夏の想い出』などと並んで、生涯観続けたい作品に出会えて、本当に嬉しい。
なぜTSUTAYAにDVDになって置いていないのか、不思議でたまらない。

全編通して、割と断片的なエピソードの連なりのような印象を受けた。特に幼少期などは思い出の一つ一つを断片的に連ねながら徐々にジャネットとその家族の輪郭を観客の脳内に形成していくような作りになっていると思う。
ナレーションなどによる感情の説明などもあまり行われないため、ジャネットが何を思って行動しているのかなどは分かりづらいところもあるが、それでいいと思う。
モノローグで説明なんかされたら、それこそジャネットの気持ちを理解しようとする観客の集中力すら削いでしまうと思うし、そもそも人間の行動全てを理解してしまえるような人物描写に深みはない。
決して分かりにくいストーリーではないのに、理解しきれない人物描写が挟まれるからこそ、ジャネットという人間そのものの面白みが存分に引き出されていると思う。

精神病院で800回も手術を受けたというエピソードをセリフのみで終わらせてしまうのも、英断だと思う。
それを何度も見せて、ジャネットの強さを表現するという方法もあったと思うが、そうはせず、人生の思い出の一つというニュアンスでスルッとセリフのみ説明してしまうところに、ジャネットの芯の強さが表れていたと思う。

基本的に“書く”という行為によって自我を保ち続けているジャネットが、ある男と出会って、初めて性交渉をもつシーンがとても印象的。ずっとジャネットが自分自身で自我を保ち続けてきたのを見守ってきた僕(観客)にとって、あの男性との出会いをきっかけに、執筆することすら忘れて、初めて人との交流によって自分自身の生を実感していく展開は、胸を締め付けられずにはいられない。

最終的には作家としても人としても一人前になり、自立していくジャネットが、それでもなお執筆に向かうシーンで映画は終わる。
その姿は自我を保つためなどの理由はなく、ただ生きていく中でなくてはならない行為として描かれているような気がした。基本的に厳しい人生を俯瞰的に描く作品ではあるが、とても温かい気持ちになれた。

何度でも観たい。
あさひ

あさひ