クシーくん

聖衣のクシーくんのレビュー・感想・評価

聖衣(1953年製作の映画)
3.3
BSで映画を観ていて「ははあ、NHKは困ると西部劇だな」などと常々思うのだが、昔のハリウッドではネタ詰まりしたら史劇、宗教劇をやれと言われていたらしい。

「ヨハネによる福音書」の短い記述を基にした創作で、頽廃的なローマ帝国の価値観に染まっていたローマ人将校が、ある事件を契機に悔改めキリスト者として生きることを選ぶ、愛と信仰の物語。

初のシネマスコープ映画らしい。何故こんな説教じみた話を記念すべき第一作に選んだのか理解に苦しむが、逆に言えばこれでいけるという判断があったのだから凄い。事実本国アメリカでも大ヒットしてアカデミー、ゴールデングローブ賞を取り、日本でも鳴り物入りで宣伝した結果、戦後最高の観客動員数を獲得したというからこれまた凄い。しかしそれにしては、今は大分忘れ去られた作品な気がする。

退屈かつ唐突なラブロマンスの行方は陳腐で興味を惹かず、後半に入り散漫なアクションが加わるが、やはり冗長。そういった部分よりも本作の魅力はまず映像にある。

初シネスコということもあり、幅広の画面にローマの全景がこれでもかと映し出され、ズームアウト多用で見せる奥行や豪華な衣装やセットが目を楽しませてくれる。時代故の露骨なマットペインティングは少々見られたものの、ゴルゴダの丘ではギリシア人奴隷ディミトリアスが丘の上で磔刑にされたイエスを、麓から見上げる様子を敢えて正面から撮って、無駄に坂道の躍動感を出すなど実験的な部分も多く、映像作品としては全く飽きずに見ていられた。初シネスコ作品の名に恥じない面目躍如という感じ。ただラストはまるで打ち切り漫画のようなオチで、もうちょっと一捻り欲しかった所。

回心と信仰のお話だが、イエスに救われた者を登場させて寓意的に信仰に心を動かされる経緯を易しく説明しているのも、非信者の私から見ても心動かされるものがある。イエスが本当にチラッと写るだけで殆ど登場しないしセリフも一言もないのもまた良い。
ペトロが主人公に紹介される際に第三者の爺さんから主の側に最後までいた方みたいに言われて気まずい顔して言い直そうとしたのはちょっと笑った。

肝心のタイトルにもなっているイエスの衣こと聖衣だが、作中でローマ人から言われるように呪いのアイテムにしか見えない。主人公のマーセラスはつまり従来のローマ的価値観にそもそも疑問を抱いていた人物であり、聖衣はそのきっかけにすぎなかったということなんだろうけど、演出の問題でどうみても人間を発狂させる恐怖の衣。もうちょっと神秘的な苦しめ方なかったかな。

どの役者も好演だが、やや演技過剰なもののカリグラ役のジェイ・ロビンソンがハマってて特にいい。多分相当作り込んできたんだろうな。
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