ゆかっこー

麦の穂をゆらす風のゆかっこーのレビュー・感想・評価

麦の穂をゆらす風(2006年製作の映画)
4.6
北アイルランド問題のことを勉強、研究するにあたって的なところで大学の先生にDVD借りて観た映画。
ケン・ローチ監督のこと恥ずかしながら知らなかったんやけど、ほかの作品もいろいろ観てみたいと思った。

ただただ辛いストーリーなのだけども、ぼろぼろ泣くことはなくて、逆にそこがこの監督のすごいところ。泣かせに来てるわけじゃない。でもただただリアル。

最初の方に一瞬「ノンフィクション?じゃなくてドキュメンタリー?じゃなくてん?いや普通に作った映画やんな?」みたいな変な感覚になって、DVDケースだけ確認してまた続き観たのだけど、その私の戸惑いの理由は監督の撮影手法的なところにあったのでは、と、付録のケン・ローチ監督に関するドキュメンタリー的映像を観て納得しました。
物語の時系列すべてそのまま崩さない順番で撮影して、しかも台本をシーンごとに渡すらしい。それも前日か当日に。その台本もきっちりしたやつではなく、役者さんは次に何が起こるのかあんまりわからないままにお芝居してるらしい。つまり素の部分が大きいとな。すごいなと思った。
(そのことによる物語への制約が0とは言えない気がする場面もあったにはあったけど、でもそこは観る側が汲み取るべきなのかもしれない。)

悲しい話やった。
北アイルランド紛争において彼ら(アイルランド)の側だけがテロリストと呼ばれてしまうこと、(それ自体の善し悪しは別としてやけど、)それもある意味では仕方ないんだとこの映画を観て理解した。
冷戦が終わって国家以外のアクターが目立つようになってきて、とかそんなことが議論される前から、彼らはそういう戦い方をしていたんだと知った。本当は国家レベルなんかじゃないもっと個人レベルの戦い方をしてるのに、イギリス側に対抗するために、独立を勝ち取るために、これは戦争なんだって言って自分たちのやることを国家レベルに無理に当てはめようとする。その無理が歪みになって、結果経験しなくて良いはずの悲しみまで彼らは生み出して背負ってしまう。

キリアン・マーフィ素晴らしかった。
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