塔の上のカバンツェル

ワンス・アンド・フォーエバーの塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

3.6
メルギブ主演のベトナム戦争映画。

ベタな戦争フッドものかなって思って見始めると、意外に引き込まれる映画だった。
何というか、泥沼化する前のベトナム戦争の"良い面"を重ねていく構成なのではと。


本作はまず、ベトナム戦争初期の"イア・ドラン渓谷の戦い"を描いた作品であり、ベトナム戦争の1番最初に当たる米と北越の正規軍同士の戦闘だったわけで。

つまり、ドラッグや戦争犯罪、民間人の虐殺、ゲリラ戦法という、ベトナム戦争の負のイメージとは一線を引ける舞台設定でもあるんですね。

で、この映画が描く"良い面"とは、米軍は職業軍人のスペシャリストであり、対する北ベトナム軍もまたよく組織された軍人達であり、白人黒人日系中華ラテン等の様々な人種も仲間の為に戦った同士であり、戦場カメラマンも兵士たちと同じ目線で戦場に立つ信念の人であり、そして彼ら兵士の妻たちの献身と苦悩…と、戦いの現場の人々を終始リスペクトするというのが本作の特徴でしょう。

悪く描かれるのは、米軍の参謀部や戦後にワラワラと湧き出る報道陣ぐらい。

古典的なアメリカ人史観も垣間見えるものの、この辺のリスペクト視点がベトナム戦争モノの中では異色にも思えてくるという。

なので、"ベトナム戦争の傑作映画"たちとはそもそものテンションが違うので、余り名前も上がらない作品なのだなと。



ただ、本作は素晴らしいのは戦場シーンの火薬量とミリタリアクションが見応え十分なところ。

"航空騎兵"と名乗るヘリ降下部隊ならではの、UH-1の空中機動やランディングのプロフェッショナルさを堪能できる。
ヘリのパイロットも人間臭さ十分かつ、信頼できるヘリパイへの惜しみないリスペクト。

彼ら、第7航空騎兵連隊の面々がお馴染みのブートキャンプで練度を上げて、戦場で果敢に戦う様は正直圧巻。

"ブロークンアロー"で、アメリカ軍の様々な航空戦略が寄ってたかっての猛爆撃はUSA!感あって良かった。
レシプロ機のA-1の対地戦闘の有能さよ。



この映画は、"良い面"を描くとは言ったものの、戦場の描写は結構悲惨ではあったりもする。
劣勢に立たされるアメリカ軍の混乱っぷりは、差ながら「ブラックホークダウン」感すらあった。

あと、味方の兵士に誤爆するシーンでは、地上管制官が燃えて悲鳴を上げる仲間を前に言葉を失いつつ、気にするな!仕事をしろ!と声をかけれる場面は妙にリアルでもある。

映画全体のテイストに対して、戦場シーンのテンションがヤケにグロくて、ディテールが細かいあたり、後年のメルギブ映画にも通じるものがあるな…とも。


【バリー・ペッパー】
戦争映画に彼の姿あり。
バリー・ペッパーが本作では戦場カメラマン役で出てます。
ちゃんと銃も撃つので安心してください(?)

日系のジミーの件は、哀しいなぁ…。


【第7航空騎兵連隊】
空飛ぶ騎兵部隊こと、第7航空騎兵連隊。
本土でのブートキャンプシーンで、メルギブら将兵たちの部隊章がそれぞれ、第82空挺師団だったり、第1騎兵師団だったり、メルギブは第2歩兵師団だったり、各部隊から集められたことがわかる。
ベトナム派遣時には、騎兵ってことで第1騎兵師団の部隊章を付けていた。


【南ベトナム軍通訳について】
映画序盤で渓谷にタッチダウン直後に、北ベトナム軍兵士を捕虜にとって尋問するシーンで通訳が出てきましたが、
彼はARVN(南ベトナム軍)のレンジャーですね。
この頃のARVNレンジャーは、まだ部隊規模もそこまで大きくないので、アメリカ軍付きで派遣されたのかと。
タイガーストライプの軍服に、黒豹の部隊章がトレードマークで分かり易い。


戦争映画としては米軍称賛のベタな作品でもあるものの、
改めてメルギブは泣く演技も上手いなぁ、などと再確認もできた。


【追記】
基本は史実ベースの映画だけど、原作もあるのかも。
APU通信のギャロウェイと誤爆された日系兵士の逸話はヒストリーチャンネル製作の「vietnam in HD」でインタビューも出ているので、諸々時系列に忠実な映画だったのかも。