えびしお

美しき冒険旅行のえびしおのレビュー・感想・評価

美しき冒険旅行(1971年製作の映画)
4.0
自然と、我々の暮らす文明社会。
本来、我々は服を着なくても、必要以上に殺さなくても、賭け事も観測も地質学も、仕事の昇進争いも、全てなくても生きていけるはずなのだ。文明で暮らす我々は、自分たちの決めたルールに縛られ、窮屈な思いをし、苦しみ、時には自殺という自滅の道を選ぶ。文明社会は一人一人の人間にとって、歪で、不安定で、息苦しい。
しかし、文明の中で育った我々には、自然に帰ることは難しい。白人の少女がそうであったように。
そして我々は自分たちが正しいと思い込み、自然の中で生きる人々を隅に追いやる。自然に対する文明の不必要な侵略と傲慢と拒絶が、アボリジニの少年を殺したように思われた。それは自然を蔑ろにし、破壊する我々への批判だろうか。
アボリジニの少年と白人の少女が、家の中ですれ違い、交差し、出会わないシーンは、彼らが同じように生きていけないことを表しているようだ。文化と、コミュニケーションと、価値観のすれ違い…。

少年の死を見ても平然としている少女は、自然を破壊しても平気な顔をしている文明社会の象徴に思われた。しかし大人になって、文明のルールに縛られる夫を前に、彼女は思い出す。自然の中で自由に生きたひと時を。

オーストラリアの自然が美しい、不思議な雰囲気の映画。