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たそがれ清兵衛のMASHのレビュー・感想・評価

たそがれ清兵衛(2002年製作の映画)
2.5
山田洋次監督の作品を観るの初めてかも。「下級武士が実は剣の使い手で…」みたいな話は非常に僕好み。世間の評価も非常に高いのでだいぶ期待して観たのだが、正直に言ってしまうと凄くがっかりした。確かに映画的に優れている部分もたくさんあるのだが、それ以上にどうも納得できない部分が多すぎる。一言で表すならば「甘すぎる」ということだ。

この映画が海外でも評価されているというのは頷ける部分もある。特に映すものとその映し方がちょっとそれまでの時代劇映画と一線を画している。カラー作品になった頃の時代劇は非常にカラフルなものが多かったが、この映画は色が抜けたようなセピア調の色遣いをしている。そして、その中で真田広之の美しい所作が丁寧に映し出される。刀と研ぐシーンや着替えるシーン、それこそお辞儀の一つに至るまでひたすら丁寧。地味といえば地味だが、その中で魅せるべき点をしっかり魅せ、観客を飽きさせないというのはこの監督の腕なのだろう。

ただ内容がちょっと…。この映画は「貧しさなどの苦しい状況の中でも正しく生きる人」を描いているわけだが、説得力に欠ける。何故か。それは清兵衛が常に清く正しい人だからだ。生活は苦しくなる一方なのに、子供にやボケてしまった母にも一切イラつく様子はない。どんな相手でも常に人のことを気遣うことができ、彼が精神的に追い詰められ間違った方向に行きそうになる、というようなシーンが一切ない。人としてのいやらしさを一切排除しており、個人的にはリアリティの欠片もないと感じてしまった。その人の汚い部分を描いてこそ、それでも正しく生きようとする姿に人は心打たれるのであって、最初から最後まで正しいだけの清兵衛には全く共感できなかった。

また、清兵衛が上意討ちをするシーンにも違和感を覚える。上意討ちを受けるシーンでは人殺しをするということの重さを感じさせるのに、最後ら辺にはそのことには触れなくなってしまう。清兵衛の豹変っぷりがあったりしたならまだ意味を成したのかもしれないが、代わりにこの映画は押し付けがましいほどの"愛"の描写で誤魔化している。"愛"があれば全てが帳消しになるとでも言いたいのだろうか。特に最後のナレーションなんかは普通に余計である。

僕は美しい映画は好きだが、美しさにしか目を向けようとしない作品は嫌いだ。この映画は後者のように感じる。"愛"という甘い言葉を語るだけで、貧しさなどの現実の苦しみとちゃんと向き合っていない。「こうだったらいいのにね」ということしか描いていないのだ。こういう人の汚い部分が一切ない潔癖的な映画が好きならどうぞという感じだが、個人的にはすごく苦手な作品だ。
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