高円寺ぱか

007/慰めの報酬の高円寺ぱかのネタバレレビュー・内容・結末

007/慰めの報酬(2008年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

ボンド22作をバーっと見てきたのだけれど、ここで絵作りの"現代"らしさが一気に加速したと思う。カジノ・ロワイヤルもよかったけれど、今作の方がアクションが多く、より発揮されている。優れたテンポに、アイディアもある。非常に格好いい。ただ、冒頭のボンドとミッチェルのチェイスシーンが、前作と同じところにあるのだけは残念だったけれど。

物語は、本当にボンドか、というくらい複雑。とはいえ読解が難しすぎるほどではないのでご安心を。いままでのボンドと同じ心構えで見ると、追いつけない部分がある、という程度。ボンドの心情が丁寧に、丁寧に描かれており、サブテクストで現れるのは美しい。一つ引っかかったのは、ボンドが本当に復讐心からミッチェルやスレイトを殺したのかどうかに決め手がないところ。解釈によってMの勘違いという醒めるパターンも含んでいるのが、危ういように思える。

完全な前後編というのも大いに異例だ。しかしこの前後編には、数々のトライ&エラーにより導き出された商業主義的成功定理であるキャラクタ「ボンド」像を、原作のエッセンスによって解体・再構築するという、綱渡りにも等しい試みによって作られている。その心意気には非常に感銘を受ける。

そして2本を使ったヴェスパーという事件をくぐり抜け、ようやくボンドが完成する。だから最後にガン・バレルが現れるし、エンディングでメインテーマなのだ。



ボンドはホワイトをMに引き渡す。ヴェスパーがフランス人の恋人と写った写真を手に取るボンドに、Mが彼は死体として発見されたとされているが、そのDNAは別人だった、と告げる。

ホワイトは拷問開始直後に消え失せた。Mの長年の護衛ミッチェルが「組織」の一員だったのだ(裏切りのシーンが格好いい)。ボンドは逃走劇の末ミッチェルを殺し、Mは彼の復讐心を疑う。

ミッチェルの紙幣の連番がル・シッフルの違法資金、ハイチの地質学者スレイトの持つ金に続くと判明。ボンドはスレイトを尋ねるが、待ち伏せをされ殺してしまう。受付でスレイト宛のブリーフケースを受け取ると、外で女性カミーユに車に乗れと言われる。ブリーフケースからは一丁の拳銃と彼女の写真。スレイトは殺し屋だったらしい。ボンドを突き飛ばしたカミーユは、車を飛ばし殺しの依頼主グリーンに噛み付く。グリーンはカミーユが自分と寝たのには目的があると看破していた。目的どおり、カミーユをボリビアのメドラーノ将軍に紹介する。カミーユが同乗した将軍に銃を突きつけた瞬間、ボンドが飛び込んでくる。カミーユを助け、ボートチェイスでなんとか逃走する。

グリーンは環境団体「グリーン・プラネット」の代表。メドラーノ将軍はボリビアで軍事クーデターを企てている。グリーンの暗部に勘付いたMは、CIAも同様の疑いを持っていると察知するが、彼らはなんとメドラーノ政権下の石油利権と引換にグリーン側と手を結んでいた。フィリックス・ライターはボンド暗殺を命じられ苦悩する。

プラハ。トスカ上映の最中、客席で小型無線イヤホンを利用した密談がなされていると突き止めたボンドは、それを傍受し、剰え会話に入り脅す。動揺した客の写真を転送したところ、それは政府や財界の大物ばかり。シアターから逃げ出すボンドは追手を殺したのだが、そこに英国政府要人の護衛が含まれていた。Mは窮地に立たされ、ボンドのカードを止め、パスポートは要注意対象にし、その動きを封じにかかる。

ボンドはマティスを頼る。マティスは初めこそ自らを疑ったボンドを邪険に扱うが、彼に潜む深い哀しみに心打たれ、資金提供と同行を引き受ける。

ボリビアに入った二人は、現地連絡員フィールズと出会う。フィールズはボンドの強制送還を一方的に通達するが、ボンドと高級ホテルで同室になった瞬間即完落ち。ベッドで「こんな自分が嫌になるわ…」じゃねーわ。グリーンのパーティに潜入した一行。ボンドがグリーンに接近すると、そこにはカミーユの姿が。二人で車に乗り込み逃げ出そうとすると、グリーンと癒着した警察に止められ、トランクを開けるよう言われる。そこには瀕死のマティスが。警察を片付けるが、マティスはボンドの腕の中で息絶えてしまう。ボンドは哀しみを湛え、その死体をゴミ捨て場に置き去る。いいのか尋ねるカミーユに、本人は気にしない、と答えるボンド。

二人は砂漠で輸送機を買い上げ、乗り換える。その持ち主のタレコミから早速追手が現れ、空戦に。パラシュートで降下した地下で、二人は気持ちを明かし合う。カミーユは子供の頃目の前で、メドラーノに父を殺され、母と姉を強姦殺され、家を焼かれた。復讐を誓っている。ボンドもまた自らの気持ちを吐露する。二人は立ち上がり、地下水源を見つける。グリーンが世界中で独占しようとしているやはり石油などではなく、水だったのだ…。

ホテルにボンドが戻ると、そこにはMとCIA。そして石油まみれにされたフィールズの死体。さらにはボンドにマティス殺害の容疑がかけられたのだ。Mは00の剥奪を命じ、失望したと言いすてるボンド。手錠をかけられつつもエレベータ内でCIA4人を返り討ちにしたボンドは、部屋に戻りMにグリーンを追うと告げる。Mはタナーにその支援を命令、反問されると自分はボンドを信じると言い放つ。

砂漠のホテル。ボンドはカミーユに復讐という個人的な殺人は訓練を裏切るかもしれないから「深呼吸して、一発で」と助言を送る。メドラーノ将軍がホテルの給仕に色目を使っていると、グリーンが到着。グリーンは組織の大きさを見せつけるようにして、事前の打ち合わせ以上の資源提供を将軍に約束させる。メドラーノが怒りにかられ給仕を強姦しようとしている最中、ボンドとカミーユが暴れ出す。燃料電池に引火し爆破、炎上するホテルの中でボンドはグリーンと格闘の末、これを捕獲。カミーユはメドラーノを一撃で射殺するが、火事でトラウマを発症。ボンドはそれを助け、外に脱出する。見上げると砂漠を走って逃げるグリーン…。ボンドは彼を捕まえ、「クァンタム」なる組織名を吐かせ、砂漠に放り出す。喉が乾いたら飲め、とエンジンオイルを放り投げて。

カミーユはボンドに、あなたの苦しみを癒してあげたいけれど、あなたの地獄は頭の中にある、と告げる。二人はキスをして別れる(ベッドインなしだと…!?)。

ロシア。ボンドはヴェスパーの恋人にたどり着いた。共にいた、ヴェスパーと同じペンダントをしたカナダの秘密諜報員に「リークがある」と告げ、去らせる。ボンドは彼に銃を向け…。

雪の中、ボンドが出てくるのを待っていたM。Mは戻ってきてとボンドに告げ、ボンドは一度も離れた覚えはない、と返す。雪の上には、ヴェスパーのペンダントが、落ちている。