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星空のakrutmのレビュー・感想・評価

星空(2011年製作の映画)
5.0
台湾の人気作家ジミー・リャオのベストセラー絵本を、トム・リン監督が映画化した作品。両親は不仲で離婚寸前、大好きだった祖父も亡くなり孤独感を募らせていく少女が、祖父の田舎で小さい頃によく見た星空を見るために、親しくなった転校生の少年といっしょに家出するというストーリー。『九月に降る風』で長編デビューしたトム・リン監督の2作目にあたり、絵本の世界を美的で幻想的な映像によって見事に描き切った最上級の映画である。台湾の人気ロックバンドMaydayによる主題曲をバックに、絵本の原画が次々と映し出されるエンドロールまでも素敵である。

台湾の映画はほんとうに映像が美しすぎるほど美しい。絵本が原作なので、本作では実写とアニメーションを合体させたような映像もうまく使われているが、それだけではなく、特に夜の映像が印象的。光と影の使い方がうまいし、派手と地味の中間のような微妙な色彩感覚が素敵なのである。おそらく日本でイメージする夜の色彩感覚と異なるのであろう。台北の夜市に行くと、派手な中にもどこか落ち着きのある感じの色彩を感じることができるが、そんな色彩感覚が反映されているのかもしれない。

主人公の少女シンメイと少年ユージエを演じた子役の演技も素晴らしい。孤独を抱えた二人の交流を見ていると、何とも言えない切なさを覚えるとともに、完全に映画の世界に引き込まれていく。また、映画を彩る小道具がお洒落なのも、自分の好み。例えば、シンメイの母親はパリで美術の専攻して、今は世界を忙しく飛び回るアートディーラーという設定なので、名画(のジグソーパズル)が所々に出てくる。その中でも本作の題名である「星空」から、ゴッホの「星月夜」という絵画がキーとして使われていて、そのジグソーパズルがシンメイの心情や家族の状況を象徴するシンボルとして効果的に用いられている。また、レストランで突然母親がシンメイと踊るシーンがあるが、そのとき踊っているのがジャン=リュック・ゴダールの『はなればなれに』で出てくるマディソン・ダンスである。

おそらく原作にはないだろうが、映画の最後で成長したシンメイの後日譚が提示される。大人になったシンメイをグイ・ルンメイが演じているのは、彼女のファンにとっては嬉しい限りだが、映画そのものの出来としては必要なかったようにも思う。まあでも、そういうエンディングでもいいのかもしれない。
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