akrutm

のら犬のakrutmのレビュー・感想・評価

のら犬(2023年製作の映画)
4.5
マウントを取りながらもいつも仲良くつるんでいる友人に恋人ができたことで、心の中に芽生え始めた劣等感と葛藤しながらいつもと変わりなく振る舞う若い男性の微妙な心情を描いた、ジャン=バティスト・デュラン監督の長編デビュー作となるドラマ映画。

高校を卒業しても仕事もなく毎日ぶらぶらと過ごしている若者たちの日常を描くというドラマティックな展開に欠ける内容は、フランスの若年失業率の高さを問題視する社会派作品ならば格好の材料ながら、そういう意図のない(少しはあるのかもしれない)ドラマ映画のストーリーとしてはいささか物足りないだけに、鑑賞者を惹きつけるためには何らかの工夫が必要である。本作でのそれは、こういう奴っているよねーと、鑑賞者に共感させるような現実感のある主人公ミラレスのキャラ設定であり、演じているのか素のままなのかがもはや区別できないと思わせるほどの素晴らしい演技でそんな主人公を演じたラファエル・クナールそのものである。

ラファエル・クナールの『Yannick』での演技も素晴らしかったが、そのときのキャラをもっと強烈にしたようなキャラを演じた本作は本当に素晴らしく、彼の演技を見るためだけに本作が存在すると言っても言い過ぎではない。また、ミラレスというキャラ自身もとても魅力的である。親しい友人たちには高飛車な態度を取るという嫌な面がある一方で、近所に住むおばあさんに料理を差し入れたり、年輩の人たちには気さくに声をかけたりと、心優しい男性でもある。そんな若者でありながらも女性に対しては奥手というのも、ありがちである。そんな魅力的なキャラを生み出したという点で、脚本も担当したジャン=バティスト・デュラン監督の手腕も見事と言えるだろう。

なお、ラファエル・クナールが本作の演技によって2024年の仏セザール賞の最優秀有望若手男優賞を受賞したのも、全くもって首肯できる。これからも彼から目が離せない。
akrutm

akrutm