クシーくん

陽気な幽霊のクシーくんのレビュー・感想・評価

陽気な幽霊(1945年製作の映画)
4.3
とびきり楽しい、英国流ブラック・コメディ。
デイビッド・リーン、ノエル・カワード、天才!……でもかなり人を選ぶ作品。

チャールズ(レックス・ハリソン)と妻ルース(コンスタンス・カミングス)はお互いに二度目の結婚。チャールズは死別した最初の妻エルヴィラ(ケイ・ハモンド)との悲しい別れも振り切り、幸福な結婚生活を送っていた。小説家であるチャールズは、探偵小説のネタ稼ぎの為に、かかりつけの医者夫妻と、近隣の村に住む、見るからにインチキ臭い霊媒おばさんアーカチ女史(マーガレット・ラザフォード)をゲストに降霊会を開く。降霊会はテーブルが動くだけで失敗だったとアーカチ女史を笑う一同だったが、チャールズだけには見えない筈のものが見え始め…というお話。

チャールズとルース、エルヴィラのウィットと皮肉がたっぷり詰まった早口気味の会話が面白すぎる。元々舞台劇だった事に加え、主演の三人がいずれも舞台俳優としての経験を積んでいるだけに、テンポがめちゃくちゃ良い。
舞台が元で会話中心の室内劇は得てして映画という媒体では冗長になるというイメージを抱かれがちだが、本作では視覚的な変化、例えばテクニカラーで映し出される新鮮な(?)ゴーストや、アーカチ女史が行う奇妙な魔術によって補われており、絵的にも観ていて飽きない。
考えようによってはとても残酷で恐ろしい話なのだが、人の死を余りにも(意図的に)軽はずみに取り扱う事で、バランスの取れた特異なユーモアを維持している。

私生活上の女性関係や言動は些か問題のあるレックス・ハリソンだが、演技とその上品で洗練された物腰は本作でも華々しい存在感を見せている。最高。
幽霊を呼び出す事は出来ても、消す事は出来ない迷惑な霊媒おばさんのアーカチ女史ことマーガレット・ラザフォードは本作から20年後くらい後にミス・マープルシリーズで主演を務めているが、この頃から大して風貌も演技も変わっていなくてなんだか嬉しくなってしまった。菅井きんや笠智衆みたいに若い頃から老け役だったのかな。

元の戯曲とは結末が大きく異なり、原作者ノエル・カワードはそのまるで違う結末に激しく反対し、最高傑作の戯曲を台無しにされたと嘆いた、との事だが、カワードの元のエンディングでは少々弱すぎるので、映画としては申し分ない終わり方ではないかと私は思う。
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