クシーくん

紅色娘子軍のクシーくんのレビュー・感想・評価

紅色娘子軍(1961年製作の映画)
3.0
直球ストレートなプロパガンダ映画。実際に1931年に発足された、全員女性で構成された中国共産党の特別中隊を基にした史劇もの(といっても、後述のように現実とは著しく乖離しているようだが)。支配階級の過酷な抑圧、封建社会に虐げられてきた女性の怒り、ウーマンパワー!を毛沢東政権下の共産中国で表現するとこうなるというお手本みたいな映画。

舞台は1930年代の中国は海南島、領主の南覇天(ナン・バティアン)から、逃亡のかどで酷い虐待を受けていた奴隷の少女、呉瓊花(ウー・チョンファ)は、南覇天のもとを訪れていた富裕な華僑の青年実業家、洪常青(ホン・チャンチン)に買い取られる。
実は青年実業家とは敵を欺くかりそめの姿、共産党員の常青は瓊花を解放すると、紅色娘子軍に加わる事を勧める。道中知り合った友人の符紅蓮(フー・ホンリェン)と紅色娘子軍に入隊した瓊花は、厳しい訓練に耐え抜き、労働者階級を虐げる南覇天と国民党を打倒する事を固く誓う…という話。

当初の脚本では、主人公の呉瓊華は自分を助けてくれた青年、洪常青と恋仲になる予定だったようだが、政府から恋愛描写に待ったが掛けられた為にその辺りの描写が明らかに有耶無耶になっており、あくまで美しい同盟の士として消化されている所にプロパガンダ味の磨きをかけている。その代わりに主人公の親友がポッと出の男と結婚し、その後二人の間に生まれた子供は新たな革命闘士になるのだ!という描写はなかなかぞっとしない演出。官製フェミニズムの歪さが如実に顕れていた。

戦闘シーンはプロパガンダにしてはなかなか良く出来ていたが、随所に宗教がかった共産主義賛美が盛り込まれている為、エンタメとしては手放しでは楽しみにくい。数作しか観ていないが、ソ連のプロパガンダ映画よりもその辺の描写がかなり露骨。ただ、反動主義者(=反共産党、ブルジョア)である金持ちが捕縛されたシーンなどは、領民に奪われたらいまにも凄絶なリンチが始まりかねない怒気と怨嗟の念が力強く表現されていて、図らずも本作公開から五年後に起こる文革を予期していたかのような描写なのが興味深い。

先述の通り、映画と現実の紅色娘子軍は著しく乖離しているようだ。1931年に結成されて500日ほどしか活動しておらず、幹部の逮捕に伴い散り散りになっている。呉瓊華のモデルになった女子特務連成員の初代隊長、龐瓊花は1932年に国民党により逮捕され、1937年の国共合作まで釈放されなかった。既に中隊も解散しており、党方針に失望した彼女は地元に帰り結婚、その後、日中戦争の激化に伴い、夫は進駐してきた日本軍に殺され、自身も一度は山に逃げ込むが1942年に日本軍将校によって殺害される。
他のメンバーも文革の際に自己批判を迫られ投獄、望まぬ結婚や自殺、ホームレス同然の貧困に苦しむなど、その後の人生は極めて悲惨なものだったが、戦後になって「発見」された紅色娘子軍を愛国プロパガンダに利用する強権国家の残酷さを思うと、何とも居たたまれない気持ちになる。

なお、本作は後にバレエ作品になり、文革中に次々と芸能関係者が弾圧される中、数少ない共産主義的模範作品として海外からの来賓向けに公演され、今日もなお時折公演されているとのこと。
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