がちゃん

天国と地獄のがちゃんのレビュー・感想・評価

天国と地獄(1963年製作の映画)
4.3
原作はエド・マクベインの『キングの身代金』。
それを黒澤明監督は、
通常の映画の3本分くらいの濃度で映画化しました。

大企業『ナショナルシューズ』の重役権藤(三船敏郎)の元に、『息子を誘拐した』という脅迫電話が入る。
身代金3,000万円を要求する犯人だったが、
犯人が誘拐したのは、権藤の息子ではなく、
権藤の運転手の息子だった・・・

というわけで、
前半は捜査陣と犯人側との電話でのやり取りが密室内で行われる。
カメラは一歩も外へ出ないが、
それが息苦しいほどの緊迫感を呼ぶ。

権藤にとって3,000万円は用意できない金ではないが、その3,000万円は会社でのし上がるために苦心して貯めた金。
それを、自分とは直接関係のない運転手の子供のために支払うのか!?というのが、前半のサスペンスの基礎となっている。

このあたりのサスペンスの積み上げ方は神業といってもいい。
ブロックが一つ欠けても崩れてしまうタワーのような、1ピースでも欠けたら台無しになる大きなジグソーパズルのような。

身代金受け渡しの場面でカメラは外に出る。
走っている国鉄特急こだまのシーンだ。
息苦しいまでに緊迫していた作品が、
ここから軽快で颯爽としたテンポに変わる。
この呼吸も見事だ。

捜査陣のリーダーの警部を仲代達也が演じているが、黒澤監督はヘンリー・フォンダをイメージして作り上げた人物だという。
いわれてみれば、そんな風貌だ。

後半は、
江の島、逗子、江ノ電と、まるでサザンオールスターズの歌に出てきそうな場面が連続するが、共犯者が別荘で発見された後は、
麻薬に溺れた地獄絵図の展開へと変わる。

伊勢崎町で、犯人が麻薬の受け渡しをするシーンから、麻薬の禁断症状の人間が集まってくるドヤ街の様子が描かれるのだが、ハングルと日本語と英語が交じり合った異国の情景で、悪夢を見るような陰惨たる場面となる。

死刑宣告された犯人山崎努が、刑務所で権藤と会話を交わし絶叫する場面で映画は終わるのだが、そこに貧困の本質を問うといったテーマが浮かび上がる。

身代金受け渡しに使われるカバンの厚さ7センチの謎や、工場の煙突から上るピンク色の煙(この作品はモノクロで、このシーンのみパートカラー)、電車の構造を徹底的に調べ上げたスタッフ、撮影に邪魔だからと民家の2階を取り壊した(もちろん撮影後は元に戻した。)など、多くのトリビアもある本作。

もし未見でしたら絶対後悔しますよ・・・

がちゃん

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