このレビューはネタバレを含みます
日曜日、21:00まわってTVをつけたら、日本映画専門チャンネルで黒澤明監督の「影武者」をやってて、久しぶりに最後まで見入りました。1980年の映画。カンヌのグランプリ。
20代、タイムスリップするように黒澤明のモノクロ作品を観まくってました。
歳をとって「影武者」を観ると、受け止め方が変わるんだなあと。初めに観たときは、荘厳でリアルな武田騎馬軍や日本中の名城を使ったロケに圧倒されつつも、哀しい暗い映画(特に怖いメイクの仲代達矢さんのキャラが印象的で)だなあと思いました。
昨日観て感じたのは、生きることのはかなさというか、人って思いがけない出来事に翻弄されてしまう存在だということが一貫して描かれてるなあと。
偶然に放たれた銃弾で命を落とす信玄、捕まって意に反し影武者になることを強要される盗人、影であることが露呈してしまう一瞬の事故、そして勝頼はそれまでの鬱屈感の反動で重臣達から主導権を握るがために勇んで大軍を引き連れて…長篠で破滅する。皮肉のように、山のように動かない鉄砲隊で武田軍を滅ぼした信長も、やがてその後一瞬の隙を本能寺で襲われて果てる。
一見完成されていた武田家が、一発の銃弾の偶然から崩れ、抗いつつもそれぞれの思惑の違いから、結局コントロールできずに皆滅びてしまう。
そんな中で、初めは影武者を散々嫌がっていた盗人は、影であることが露呈して館から追い出されながらも、一人武田軍の後を追って、誰に知られることもなく運命を共にする。
偶然に運命を弄ばれるのも人間。一方で、思いもよらなかったことの末に、置かれた立場や出会った人・物事を背負うのも人間。ただできることは、自分の力を尽くすこと。
歳をとって、上手くいかないことも増える中で、映画を観てふとそんな風に感じてしまいました。
この映画は直接の戦闘シーンは描かれず、最後に兵と馬の屍が広がる長篠の地獄模様が延々と映し出されます。戦争の意味するものをこれでもかと示しているかのように…。
ここまで書いて、「影武者」と宮崎駿監督の「風立ちぬ」って、凄く似ている、同じことを描いた映画じゃないか…と思いました。
映画の後の仲代達矢さんと軽部アナの対談観てたら、なんと長篠の合戦のシーン、使った馬は300頭、あまりにも危険すぎる撮影だったので救急車が現場に10台待機、危なすぎるとエキストラがストライキをやって撮影が3日止まったそうです( ̄▽ ̄;)
主役の仲代さんは当時46歳。俺とほぼ変わらん(゚Д゚ )
しかも「影武者」、最初のキャスティングは勝新太郎で、黒澤監督とケンカ別れをしたのは有名な話で…。
勝新の「影武者」もテイストが違って、凄かっただろうなあ…。