ざきを

リトル・マーメイドのざきをのレビュー・感想・評価

リトル・マーメイド(1989年製作の映画)
5.0
昔はアリエルの可愛さだったり、Happily Ever After なストーリーを楽しんでいた。
そして大学生となり、ハワードアッシュマンという人物を知り、「リトルマーメイド」「美女と野獣」「アラジン」の見え方が変わりました。

以下長文になるのでご容赦ください…

ハワードアッシュマン。
アランメンケンが作曲、ハワードが作詞を担当。リトルショップオブホラーズのブレイクを機に次々の有名ミュージカルの楽曲を手がけた逸材。
ディズニールネサンス期を作り出した「リトルマーメイド」に始まり、「美女と野獣」「アラジン」と手がけ、アランメンケンもですけど、ディズニー作品の有名曲にはハワードアッシュマンが欠かせない!と個人的にはみなさんに知ってもらいたい!


そんな彼にはこんなエピソードが…


リトルマーメイドでアカデミー賞歌曲賞・作曲賞を受賞し、次の美女と野獣・アラジン同時制作の楽曲作成に移る中ハワードが、

「仕事に集中したいからロスにあるスタジオをニューヨークに移してくれないか?」

と提案します。
周りからは「調子に乗っているんだ」「彼のために移すわけがないだろ」「わがまま極まりない」と大バッシング。ロスからニューヨークまでは4500キロもの距離があり、飛行機で行っても5時間強かかる距離になる。なんの理由も言わずに「移してくれ」の一言だけでは、アカデミー賞を取り彼は調子に乗っているんだと思われても仕方ありませんよね。

でも、彼には移してほしい本当の理由がありました。

彼はゲイでした、そして末期のエイズ患者でリトルマーメイド作成時にはすでに陽性となり闘病していたといいます。1980年台はエイズの勃興期で治療する術はなく、どんどんと進行して行くしかありませんでした。
それでも彼は良い曲を作り、良い曲を披露したかった。
でも今の時代のようにLGBTQ+がそれなりに受け入れられている時代ではなく、「エイズはゲイの病気だ、ゲイといるとうつる」と悪い噂しか立たない時代でした。
そんな時代では自分の状況を簡単に伝えられるものではありません。

でも彼はこれからも良い歌を作っていきたい。
いつしかハワードの体調のことがロスのスタジオに伝わり、「なんで言ってくれなかったんだよ…」とニューヨークにスタジオを移すことにしました。
スタジオ移転後、ハワードはさらに熱心に仕事に打ち込むようになりました。しかし病魔は逃げてくれません。さらに彼に追い討ちをかけていきます。美女と野獣・アラジンの制作中にはベッドから起き上がれないほどの体調になっていたそうです。それでも彼は仕事を諦めませんでした。力の入らない手で歌詞を書き、掠れてほとんど聞こえない声でも歌い方の指示を出ししたそうです。良い曲を作りたい、自分の想いを歌に乗せたいという一心で。

しかし、美女と野獣とアラジン、二つの作品の完成を待たずして彼は天へと旅立ってしまった。

多くの人が悲しみに暮れたといいます。彼のお墓には「もうひと曲でも多く書いてくれていたら」と刻まれるぐらいに。

ゲイの差別に苦しみ、エイズに苦しんでも、良い曲を作りたいという彼の想いは、2度目のアカデミー賞受賞をしっかりと果たしました。美女と野獣でも歌曲賞と作曲賞を手に入れたのです。

彼の2曲に秘めた想いを紹介したいなと思います。

【1曲目】『The Mob Song』
美女と野獣の夜襲の歌です。ガストンたちがベルを救うためと称して、城へ向かうときの曲です。その一節。

We don't like
What we don't understand
In fact it scares us
And this monster is mysterious at least
(自分たちがわからないものは怖いんだ、知らないものは怖いんだ、それにこのモンスターはわけがわからない)

Bring your guns
Bring your knives
Save your children and your wives
We'll save our village and our lives
We'll kill the Beast!
(銃を持て、ナイフを持て、子どもたちを妻を村を守るんだ、野獣を殺せ!)

エイズやゲイ、周りからすれば知らないこと、普段身の回りで起きることのないこと、それを見る数奇な目をこの歌詞にのせたといわれています。
知らないものは怖い、確かにそうです。
だからといって排他的にし、迫害する必要はあるのだろうか?私も1人の人間で、楽しく必死に生きているのだ、生きていきたいのだ。あなたたちの気持ち、世界の私たちに向ける目というのをよく知っているよ。といったハワードの想いが伝わってきます。

【2曲目】 『Part of your world』
アリエルの陸への想いを強く描いた曲。リトルマーメイドといったらこの曲ですよね。その中の一節を。

Up where they walk, up where they run
Up where they stay all day in the sun
Wanderin' free
Wish I could be part of that world
(彼らが歩くところ、彼らが走るところ、陽の光を浴びて過ごすところ、そこを自由に歩き回れるの、いつか私もなれたらいいな、その世界の一部に)

みんなと同じように生きたい、ゲイであることを恥ずかしがる必要のない世界を生きたかった。といった彼の想いが強く伝わる歌詞です。part of "that" worldという歌詞の通り、ここはyourじゃなくてthatを使われているのもある意味意図的なんだろうなと思います。彼は世界の一部として生きたかったんです、陸に行きくても行けないアリエルと同じような想いだったんです。

リトルマーメイドや美女と野獣の曲の数々に込められた想いを知ってから観るととても胸にグッとくるものがあります。
製作陣のヒストリーを知るとその作品への愛が深まる、映画の良さですよね。
その粋な計らいを実写版のエンドロールではしてくれました。
「In memory of Haward Ashman」
この一文を見た時涙が止まりませんでした。
彼無くしてリトルマーメイドはできなかった、そして語れないんです。
ハワードへの敬意を強く感じて、とても嬉しかったです。

ここまで読んでいただいた方…
いるかわかりませんがありがとうございます。私がこの作品をこのエピソードでどれだけ好きになったかを知っていただいて、ありがとうございます。
これを読んで、リトルマーメイドや美女と野獣をさらに楽しんでいただければと思います。

In memory of Haward Ashman.
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