幽斎

推理作家ポー 最期の5日間の幽斎のレビュー・感想・評価

推理作家ポー 最期の5日間(2012年製作の映画)
3.6
1841年発表「モルグ街の殺人」は史上初の推理小説。「探偵の登場」「伏線の提起と回収」「アリバイ」「科学捜査」「犯人の意外性」を初手から編み出した天才、Edgar Allan Poe。恐怖小説と呼ばれたジャンルを、ダーク・ロマンティシズムへと進化させ、エドガー賞として今に受け継がれる。日本でも湊かなえ氏の「贖罪」が昨年ペーパーバック部門にノミニーされた。

Poeは叙情詩人の一面も持つ。本作「The Raven」は彼の代表詩「大鴉」。アメリカの教科書にも載ってる名作で、スピリチュアルと理路整然が融合した傑作。彼の詩集は今読んでも実に面白い。文字を読むのが苦手な人にも、手に取って欲しい。ブックオフで良いので(笑)。
評価が低いのはJames McTeigue監督←コイツのせい。「Vフォー・ヴェンデッタ」はWachowski兄弟の脚本に助けられたが、これは✖。Poeの名に期待した人には、平凡なミステリーに映ったと思う。推理作家が警察と事件を解決する、と言うのはPoe自身も行ってる。しかし邦題が間抜けで結末がバレてるので展開に驚きが無い、これではPoeの無駄使い。Poeの怪奇小説的手法を、安易なグロテスク描写で濁した結果、ご婦人にお薦めできない仕上がり。エンディングは完全に別注だろ、いい加減にしろ!(笑)。

John Cusack、良い役者だけど役に恵まれない、本作もミスマッチしかない。演技にリアリティが有る分、演出の稚拙が浮き彫りに為る悪循環。友人が「ザビエルかと思った(笑)。Luke Evans、相変わらずカッコいい。ゲイさえ告白しなければ007に(笑)、Poeの銀板写真を見ても彼の方が似てる。Luke Evansが天才推理作家、John Cusackが実直な刑事、がしっくり来るのは私だけだろうか?。

インスパイアしたPoeの作品を分る範囲で。
「モルグ街の殺人」密室トリックの引用、死体損壊から犯人を割り出す点。
「赤死病の仮面」仮装した人物が誘拐、シェイクスピアの魔法使いの比喩。
「マリー・ロジェの謎」現象が作られたトリックと言う行、無理やり感強し。
「落とし穴と振り子」機械仕掛けのトリック、「SAW」を思い出す人多数(笑)。
「黒猫」死体隠蔽のトリック、唐突過ぎるし時間的に不可能。
「アモンティリヤードの酒樽」船の名前、劇場では分らなかった。
「ウィリアム・ウィルソン」犯人の設定。ミステリーを模倣する犯人「私の創造主は貴方です」的な戯曲は今も新しい。

友人から「小説を読み込んで見れば良さが伝わったと思う」とよく言われる。そう思われる時点で失敗だが安心して下さい、それでも面白くない(笑)。しかし本作をトリガーとして、Poeの短編や詩集を手に取る人が1人でも増えれば、本当に嬉しい。それならPoeも喜んでくれるに違いない。
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