ゆみな

思秋期のゆみなのレビュー・感想・評価

思秋期(2010年製作の映画)
4.2
原題『ティラノサウルス』ですね。
なぜなのかは映画を観賞して貰いたいので書きませんが、とにかく私はこの映画が好きなんですよ。もう5回くらいは観てるかな。

とにかく粗暴で怒りを抑えられない男ジョゼフ(ピーター・ミュラン)と、夫のDVにおびえて生きる女ハンナ(オリヴィア・コールマン)。孤独なふたりが出会い…お互いに光を見出していくような話なんだけど、生きていくことって綺麗事ばかりじゃないっていうのをまざまざと感じさせてくれると言うかね。

ジョゼフはこの映画の中で決して善人ではない部分もあるんですよ。でも、それと同じくらい善人で有りたい自分も居て、毎日自分の中で葛藤している。初めてハンナに会った日に、祈りを捧げられて涙するジョゼフ。でも次の瞬間には彼女を傷つける言葉を吐いて、その直後に後悔の波が襲ってくる…。八つ当たりで飼い犬を殺してしまった後の項垂れた彼の瞳とかね…彼自身の弱さが自分を苦しめているわけで。

ハンナもハンナで何一つ不自由なく暮らしているようにみえるんだけど、家に帰ると夫の暴力に苦しめられていて心が休まる事はない。ある日、度を過ぎた夫の暴力に耐えかねて家を出て、ジョゼフに助けを求めるんですよ。

そこから少しの穏やかな時間を経て、2人は報いを受けることになる。ジョゼフが最後にハンナに向けた手紙が全てを語っているんですけど、自分を殺さないために…あるいは大事な誰かを守るために行動にうつしてしまった事は罪なのか…?ジョゼフはこの映画の中で二度犬を殺すわけなんだけども、2回目は私は正しい行動だったと思うんだよね。犬の首を膝に置いた彼の視線は、ジョゼフを慕っている少年サムの母親に向けられていた。ジョゼフの想いが彼女に届いてくれたら…と切に願う。


ラストシーンの二人の表情は優しさに溢れていてとても素敵。そして、今日も彼女は彼に笑顔をくれる。この先、平坦ではない長い道のりが続くんだろうけど、きっと穏やかに暮らしていけるような温かさがあった。原題のままでも良かった気がするけど、邦題の『思秋期』ってのもいい感じ。
ゆみな

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