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菖蒲のodyssのレビュー・感想・評価

菖蒲(2009年製作の映画)
2.2
【独りよがり】

かなり分かりにくい映画ですね。

息子を若くして亡くした婦人が、老境にさしかかってから若さあふれる青年と知り合い、惹かれていく、という物語だけなら良かったと思う。ところがこの物語の配置が不明なので、分かりにくくなっているのです。

まず、背景が分かりにくい。婦人が息子を亡くしたのは、作品サイトによるとワルシャワ蜂起だそうです。この事件自体が日本人にはなじみが薄いんですが、それはまあいい。

だけどワルシャワ蜂起って第二次世界大戦中のことですよね。だとすると息子が亡くなったのは1940年代前半。言うまでもなく今は2012年。70年も前の話です。とすると、当時息子を亡くした婦人といったら最低でも今では90代にはなっている。よぼよぼ、と形容してもいいくらいの高齢です。ところがこの映画のヒロインである婦人はそんな年には見えない。夫だってそうです。まだ現役のお医者さんで、二人はどう見ても五十代か、せいぜい六十代にしか見えない。

とするとこれは30年以上前の話なんでしょうか。ということは遅くても1980年頃ですね。当時のポーランドがこの映画に描かれたような具合だったのか、日本人としてはよく分かりません。日本での話なら室内の様子などから或る程度分かりますが。現地の人には分かるのかも知れないけど。それにその頃はポーランドは社会主義国だったはずで、となるとソ連との関係だとか色々ありそうだけど、作中にはそういう話は出てこない。

次に、この映画が三層構造になっているということ。これはあらかじめ知識を仕込んでからこの映画を見ないと分かりません。映画の最初にも断り書きはありますが、それでも、夫が病気で死ぬというようなモノローグを続ける婦人がいて、ところがいちばん内部の物語では夫は医師で病気ではなく、その夫人が病気なんですよね。その辺がごっちゃになりやすいし、仮にそこは識別できるにせよ、何で俳優の私的事情を映画のなかに持ち込まなきゃならないのか分からない。おふざけの映画ならアリでしょうけど、そういうつもりで作ったわけではなさそうだし。

さらに、映画を撮っている最中の映像(カメラで映しているところとか)まで出てくる。(だから三層構造なんですけど。)これ、明らかに余計ですよ。

結局、制作側のそういう独りよがりが目に付くわけで、そのせいで一番肝心のところの印象が薄くなっているとするなら、失敗作と言うしかないでしょう。原作にとっては不幸なことに。
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