櫻イミト

省港旗兵・九龍の獅子/クーロンズ・ソルジャーの櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.0
香港ノワールの始祖とされる傑作。史上初めて九龍城砦でロケ撮影。「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」の元ネタ。監督は本作一本のみで以降プロデューサーとなったジョニー・マック。製作総指揮サモ・ハン・キンポー。出演はオーディションで選ばれた無名の役者たち。

香港に密入国し犯罪を重ね指名手配となったトンは、密かに広東省に帰郷し元人民解放軍の戦友たちに強盗話を持ち掛ける。「香港で宝石店強盗すれば地元で貰う給料の100年分が2日で稼げる!」。大喜びで賛同する仲間四人を連れて再び香港へ密入国するが、黒社会の下請け仕事でターゲットを警官だとは知らずに殺してしまう。追われる身となった彼らは、クリスマスの夜に武装して宝石店へと向かう。。。

在りし日の九龍城砦を観てみたくて鑑賞。これが初期の北野武監督や三池崇史監督作を連想させるザラついたバイオレンスでかなり好みだった。タランティーノ監督が影響を受けたのにも納得。「男たちの挽歌」(1986)の2年前に既にこのような香港映画があったのは知らなかった。

主人公たちはいかにも田舎の青年団のような見かけだが戦闘能力だけは特出している。中国の田舎で貧しく退屈な日々を過ごしているところに、都会への憧れと金に釣られ勢いで香港へ密入国するのだ。戦争経験者の彼らにとって“異国”香港は戦場と同等の様で、生き残るためには民間人の殺しにも容赦はない。悪気ない彼らの背景にあるのは貧困と無教養なのだ。

アイススケート場の氷の上に高所から突き落とされ、ビリヤードの玉の如くリンク上に血の線を引きながら滑る警官。その残酷すぎて滑稽にも見えてしまう演出が随所に見られ本作の独特な個性になっている。クライマックスの九龍城砦での銃撃戦は「アルジェの戦い」(1966)を参考に演出したとのこと。狭く細く薄汚い迷宮での攻防を手持ちカメラが追いかける。追い詰められ機関銃で蜂の巣にされる彼らの破滅には、アメリカン・ニューシネマを連想した。

「トワイライト・ウォーリアーズ~」で再現された九龍城砦は魅力的だったが美化されていた。本作で映された本物の魔窟からは、犯罪の温床だった禍々しさが滲み出ている。香港には10年ほど前に訪れたのだが、ネオンで飾り立てられた表通りから一歩裏道に入った時の闇の暗さと、いつ身の危険があってもおかしくない空気感を感じた。本作を観ながら、その記憶がまざまざと甦った。

※本作はシリーズ続編が作られている。
「バイオレンス・ポリス/九龍の獅子」(1987)
「バイオレンス・ポリス/九龍の獅子2」(1990)
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