微笑

悪魔の微笑のネタバレレビュー・内容・結末

悪魔(1972年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ズラウスキーの二作目。
彼の作品はこれで一通り観たことになるが、本作はとりわけ気に入った。
国王の暗殺を企て、反体制の英雄ともなり得た男が、悪魔の導きを機に破滅へ転落していく。
近親相姦や母との姦通は、エゼキエルに「神聖」と語られた男の聖性を殺し、度重なる殺人へと繋がる。十字に架けられるなど、時折英雄的存在への回帰の兆しを見せるものの、それも尽く失敗に終わり、混迷の度がいや増していく。
随所に散りばめられた悪魔的なモチーフも魅力的。娼婦に堕した母はワルプルギスを想起させるように登場し、蛇を体に纏って乱交を開催する。折々登場する劇団も、わざわざ綱渡りにキャメラを向けたがる辺り、『ツァラトゥストラ』を思わせて止まない。尤も、主人公は超人にもなり得ず、歪曲したハムレット像を朧になぞるようにして死んでいく。父の死を発見する場面で、フュースリの『夢魔』を模したような構図を取っていたのも印象的だった。
奔流する悪魔的イメージが、繊細な美術や冷たい自然光に彩られて、退廃美を写し撮っているのも良い。映像の美しさならズラウスキーきっての作品にも思える。
暴力的とも言えるあのキャメラや、狂騒的な役者の振る舞いも相変わらず。特に婚約者の狂乱ぶりが、後の『ポゼッション』のアジャーニと酷似していたのが面白かった。
微笑

微笑