HAYATO

緋色の街/スカーレット・ストリートのHAYATOのレビュー・感想・評価

3.9
2024年272本目
悪夢のような運命
『M』のフリッツ・ラング監督が、若い美女と知りあったことから人生の道を踏み外す中年銀行員を皮肉なタッチで冷ややかに綴るサスペンス
ジョルジュ・ド・ラ・フシャルディエールの小説『La Chienne』及びそれを元にしたアンドレ・ムエジー=エオンの同名舞台劇を原作としたジャン・ルノワール監督のフランス映画『牝犬』のリメイク
日々の生活に疲れを感じている真面目な銀行員・クリスは、勤続25周年パーティの帰り道、キティという若い娘を暴漢から救う。すっかり彼女に魅せられたクリスは、自分を裕福な画家であると身分を偽り、やがて銀行の金を着服して彼女をアパートの部屋に囲うようになる。クリスは、キティが実は売春婦で、愛人のジョニーにそそのかされて金を巻き上げていたことなどつゆ知らず・・・。
フリッツ・ラング監督が女優・ジョーン・ベネットと当時彼女の夫だったプロデューサーのウォルター・ウェンジャーとともに設立した独立映画会社ダイアナ・プロが製作した第1回作品。メインキャストは、エドワード・G・ロビンソン、ジョーン・ベネット、ダン・デュリエら、フリッツ・ラング監督が本作の前年に発表した『飾窓の女』と同じ。
フリッツ・ラング監督のフィルム・ノワールのスタイルを象徴する作品であり、その暗く複雑な物語と視覚的な美しさで観る者を魅了する。物語はゆっくりとしたペースで始まり、主人公であるクリスが徐々に悪夢に引きずり込まれていく様子が描かれる。クリスは孤独で、愛を渇望している男。ある日、彼は街で若い女性を助けるために駆け寄るが、これが彼の人生を暗転させるきっかけとなる。自らの些細な嘘や自己中心的な行動によって次第に大きなトラブルへと巻き込まれていくクリスの転落劇は、共感と同時に心の痛みを引き起こす。
撮影監督のミルトン・R・クラズナーによる映像美は圧倒的で、アパートのガラスの扉や2階建ての構造を活かした巧妙な撮影が、この作品を視覚的にも魅力的にしている。
本作の結末は衝撃的で、フリッツ・ラングが得意とする心理的な駆け引きと視覚的な演出が見事に融合している。クリスという哀れでナイーブな男が自らの行動によってどれほど深い闇に引き込まれていくのかを目の当たりにし、強烈な感情の波に飲み込まれた。暗く胸を締めつけるようなストーリーと予測不能な展開を含んだ本作は、フィルム・ノワールの愛好者だけでなく、心理的な深みを持つドラマを求めるすべての観客にとって必見の1作と言える。
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