Tully

縞模様のパジャマの少年のTullyのレビュー・感想・評価

縞模様のパジャマの少年(2008年製作の映画)
5.0
幼かったとき、あなたは不思議に思いませんでしたか?「どうして空は青くて、葉っぱは緑なんだろう」「お父さんや大人たちは、会社で毎日、何をしてるんだろう」「どうしてお金持ちのうちと、そうじゃないうちがあるんだろう」「どうして子供はいつか大人になって、年をとって死ぬんだろう」私はそういったことが、とてもとても不思議でした。今思えば、そこにあったのは、周りの世界への新鮮な驚きとともに世界や社会の成り立ちに対する言葉にならない「違和感」でした。この映画は、私たちが誰でも子ども時代に持っていたはずの、そんな無垢な目を心を思い出させてくれる撮り方で一貫しています。子どもの瞳というレンズを通して、ホロコースト(民族大虐殺)のグロテスクさを美しくも恐ろしい詩か美術品のように描いた稀有な作品として、お薦めしたいと思います。8歳の少年ブルーノは、ナチスの将校である父の転勤で、ベルリンから田舎に移って来た。近くには学校もなく遊び相手もいないので、退屈のあまり家の2階の窓から遠くの農場を眺めていたブルーノは、不思議なことに気づく。「どうしてあの農場の人たちは皆、昼間でも、おそろいのパジャマを着てるんだろう?」母親の目を盗んで、その農場のすぐ裏まで探検に出かけたブルーノはそこに住む同い年の痩せこけた少年シュムールと友達になり、彼に聞く。「シュムールなんて変な名前だね。なんで昼間なのにパジャマを着てるの?」「動物を放し飼いにしてないのに、なんでここはトゲトゲの針金で囲われてるの?」「きみの胸に書いてある番号は、何かのゲーム?」だがシュムール自身も事情がわからないので、うまく答えられない。彼に答えられるのは、自分たちがユダヤ人だからここに入れられたということだけ。ブルーノは知らない。大人たちが彼に真実を知らせず、嘘で覆い隠しているから。そこが農場ではなく、ユダヤ人の強制収容所であり、父がその所長であることを。そこの煙突が時おり天高く吐き出す、ひどいにおいの黒い煙の正体を。子どもの視点を疑似体験させるような、詩情あふれる映像に目を奪われるが
やがて、子ども同士のつらい裏切りと、それをつぐないたいブルーノの善意が思いもよらぬ運命にブルーノを引きずり込んでいく。終盤の急展開は、まるでギリシャ悲劇のように必然的で、戦慄せずにいられない。あるレビューでこのような事が書いてあった。「いい映画だけど救いがなさすぎる。もし午前中に観たら一日中仕事が手につかない」その気持ちはわかるけれど、それでも多くの人がこの映画を観るべきだと私は思います。なぜなら、こうした非人道的な史実が本当にあったのだと思い知らせてくれて「もう絶対にやってはいけない」と思わせてくれるのも、こうした映画の力なのですから。当時のナチスやドイツ国民がホロコーストをやってしまった大きな理由として、人種の優劣に関する「偏見」と、情報統制による「洗脳」や「無知」があったはずです。だからこそ私たちは、社会のおかしさへの違和感を素直に感じる子どものような心と「真実を知ろう、直視しよう」とする勇気とを、失ってはいけないと思うのです。この作品を多くの方に是非観ていただきたいです。
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