シズヲ

クレイジー・ママのシズヲのレビュー・感想・評価

クレイジー・ママ(1975年製作の映画)
4.0
若き日のジョナサン・デミが撮った愛おしきB級クライム・コメディ。『血まみれギャングママ』『ビッグ・バッド・ママ』に続くコーマン印のママ三部作の最終作(ほんとは『血まみれ〜』から鑑賞したかった)。孫娘・母親・祖母の親子3代が家の差し押さえを皮切りに繰り広げる犯罪逃避行モノで、主要人物+脇役複数人のパーティで田舎を駆け回る姿は『俺たちに明日はない』辺りのテイストを感じる。あちらと比べると強盗団が一種の疑似家族として成立しているので空気は大分ユーモラス。ママはそんなにクレイジーではない(行き当たりばったりな犯罪者だけど)。

B級かどうかで言ったら普通にボンクラなB級だけど、何だかんだ楽しめる部類の佳作なので憎めない。80分程度の尺なだけあって細かい部分は後回しにされ、とにかく話がサクサク進んでくれるので勢いがある。アクションに関してもカースタントのシーンは十分な迫力。動物園での攻防は立体的なカメラワークやバレット・ストロングの陽気なサウンドなどで特に印象的。登場人物の掛け合いも軽快で明るいので中々楽しい。若干頼りなさげな孫娘の彼氏、肝の座ったおばあちゃん、カウボーイハットを被った中年市長、革ジャンとグリース頭の不良など、親子3代に付き合う面々もやたら個性的。カジノで成り行きで仲間を増やしてしまう下りはフフってなるし、強盗と逃避行によって育まれる彼らの連帯感は見ていて気持ちいい。皆でプールで戯れたり、木陰で悲しみを分かち合ったりするような場面は特に愛おしい。

何度も挟まれる50'sサウンドも印象的で、チープさはあるものの作中の空気感も相まって一種のノスタルジーを掻き立てられる。“社会の逸れ者達が理想の土地を目指して旅をする”という西部劇の変節めいた構図にはアメリカン・ニューシネマに近いテイストを感じる。ただし本作は破滅的なラストで終わらず、きっちり親子で未来へと繋げてくれるので一種の清々しさがある。まあ色々と懲りてなさそうな雰囲気もあるが、それはそれだ。
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