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チャーリング・クロス街84番地のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

4.0
ロンドンの古書店の店主フランク(アンソニー・ホプキンス)と、ニューヨークの脚本家ヘレーヌ(アン・バンクロフト)が20年に渡って文通し続けた様子をしっとりと描いている。

文通といってもペンパル募集から始まったのではなく、フランクの古書店へ在庫があるか確認し注文する取引から始まった。

本の問い合わせなので、文学や戯曲、歴史に詳しい人にはさらに面白いと思う。私には手紙の内容はちんぷんかんぷんだったが、二人の知性溢れるウィットや詩的表現で綴られる手紙は洗練されていて、そこに二人以外の、古書店の社員も含めて交流に加わり、文学に関心の深い人たちならではの文章表現がとても素敵だった。

1950年から交流は始まった。戦後はイギリスも配給制度があって、肉類を十分に食べられない古書店の従業員たちに、今でいう通販でデンマークからロンドンへ缶詰めを送るなどの気の利いたことをするヘレーヌ。

フランク演じるアンソニー・ホプキンスの抑えた演技は、『日の名残り』同様に知的なヘレーヌへのほのかな恋心も感じられる。

ヘレーヌはテンション高く、好きなことに真っ直ぐで、子供みたいなところがある中年独身女性(フィアンセは戦死)。フランクがヘレーヌを知的好奇心の強い大学生だと推測してから、ヘレーヌはずっとその姿を手紙内では保っている。早口なニューヨーカーも手紙ではその半分以下になる。人生に一度だけ謎の女性を演じ続けたヘレーヌ。フランクはミステリアスなヘレーヌの手紙を心待ちにしていた。

イギリスらしい室内のしつらえにもうっとりし、ロンドンとニューヨークの文化の違いも対比されていた。互いの言葉の表現は、文化が違うことを前提に気遣われていた。

手紙の良さを感じられる作品。
20年の間、手紙のやり取りで、心が繋がっていく。
お歳暮、お中元、年賀状など、お変わりありませんか?と直接会えない人への心遣いにも似ていた。
手紙を無性に書きたくなる。

そういえば、filmarksでのやり取りも似ている。趣味の映画の情報収集を超えていて、好きな作品の感想を互いに交換し、文章からどんな方なのか、勝手に想像してしまう。互いに思いやることで、交流は続いていく。

ヘレーヌが手紙に書いたことでとくに気に入ったのは、「読書は好きだけど、本の中の架空の人物より、実在の古書店の皆さんの方が心配で大切です。本の中の人物は実はどうでもいいことなのです」というような内容だった。

SNSでもそうで、架空と想像と現実の境があり、仮想空間にいたとしても、実在を忘れず、テキストの向こうにいる人は生身の人間である。思いやりがあって続く関係を大切にしたい。
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