くりふ

フロム・イーブル 〜バチカンを震撼させた悪魔の神父〜のくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【スポットライト2 鬼畜のバチカン】

『スポットライト』を見た後、DVDで。

2006年のドキュメンタリーですが、日本では「松嶋×町山 未公開映画を観るTV」で放映された後、DVD化された経緯ですね。

1970~90年代の北カリフォルニアにおける、カトリックの神父が起こした児童性的虐待史を追ったもの。制作順は逆ですが、『スポットライト』の続編とも言えますね。

あちらは2002年のボストンで、事件が明るみに出るまでをフィクションの体裁で描いていますが、こちらは恐らく、あの事件を受けて取材が行われたような…少なくとも影響関係にはあると思います。ボストンの事件も登場しますからね。

こちらは、オグレディ神父という、信徒児童への性的虐待で有罪となった、実在の人物を追っています。まず本人が堂々と登場します。懲役14年の判決を受けた後、7年服役して出所、教会の手配で、元々住んでいたアイルランドに戻り、悠々と暮らしています。

年金ももらえるんだって。払うのは教会だそうだから、自分がレイプした子供たちの親の金ってことだよね。

この男の、いけしゃあしゃあぶりが、呆れを通り越して笑ってしまう。被害者への謝罪も口にはするが、そこにまるで心を感じない。で、笑うトコじゃないトコで笑うんだコイツが。寒気がしました。

服役で罪は償っているし、大人しくしていれば教会がずっと守ってくれる…そんな気分なのでしょうかね。まあ、被害者の気持ちなんてわからないから、これだけ長い間、虐待を続けられたのでしょうけれど。

被害者の中でも、ある父親の叫びには心を締めつけられます。自分の幼い娘が何年も何年も、信じ切っていた神父に…しかし気づけなかった。これはたまらないでしょう。

「結局、神はいないんだ!」と叫びたくなるのはよくわかるし、その方が正しいと思います。こういう事件を見るたび思いますが、神が本当にいるなら、敬虔な信徒がひどい目に遭っているのに、なぜ何もしないのでしょうね?事件を起こしているのは神父ですよ。しかも大勢。

唖然呆然のエピソードが頻発し、その衝撃は『スポットライト』どころではありません。こちらは当事者が、実体験として語っていますしね。

被害者の年齢の話で「生後8か月」と聞こえた時には耳を疑い、あまりに気持ち悪くて再確認はしませんでした。

被害者女性二人が、カトリックの本拠地バチカンに出向き、ある行動を起こすところまで行きますが…アチラの対応にまた口ポカン。これ、報道か何かで以前に見た記憶もあったのですが…末端の信徒などどうでもよいのでしょうね。

見ていたらとりあえず、その名前はチとカを逆にした方が似合うと思ったよ。

本作は(当時)もう10年前の作品で、バチカンの教皇も色々叩かれたこともあったせいか、既に代替わりしていますね。新教皇はこの事件解決に意欲満々らしいけれど、まだ組織優先、と叩かれてもいるようです。

Wikiの語録見たら新教皇、「小児性愛者の司祭がいるなら、その者は司祭になる前からそうなのだ」って言いきっちゃっているのね。「教会のせいじゃない」って言いたいのビンビンに伝わりますが、そうならそうで、その問題を信仰の力でどうして解決できないのか?

別の語録に「主に忠実であるとは、常に変化し、開花し、成長するということなのです」ともあるけれど、ペドフィリアとして開花し、児童連続レイプ魔に成長した神父たちも、主に忠実だったのでしょう?だから破門にしないで、別の教会に移動させただけなのだろうしね。

新教皇による施策で、新たな被害発生率は減るのでしょうが、問題神父を救うことができない限り、別のかたちで問題は出続けるのだろうな、と思いました。無残なことです。

何にせよ、本作は見応えあります。意義ある、残すべきドキュメンタリーでありました。

<2016.5.9記>
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