櫻イミト

赤死病の仮面の櫻イミトのレビュー・感想・評価

赤死病の仮面(1964年製作の映画)
3.5
ロジャー・コーマン監督の最高傑作とされ「第七の封印」(1957)と比較して論じられる一本。ポー原作怪奇映画シリーズ全8作の7作目。撮影は後に「赤い影」(1973)を監督するニコラス・ローグ。ヒロインは当時ポール・マッカートニーの恋人でビートルズの歌のモデルだったジェーン・アッシャー(当時18歳)。主演はシリーズ常連のヴィンセント・プライス。

中世イタリア。村で死の伝染病“赤死病”が蔓延する中、悪魔崇拝者の領主プロスペロー(ヴィンセント・プライス)は村娘フランチェスカ(ジェーン・アッシャー)を見初め強引に連れ帰る。城内に閉じこもり狂気の舞踏会を続ける日々。森には赤い頭巾を被った何者かが現れる。。。

原作未読で鑑賞。ダークな中にカラフルな色使いが美しく、カラーでのゴシックホラーの成功例だなと楽しんで観ていたら、終盤になって急激にアート色が強まり、最後は哲学的に幕を閉じた。娯楽映画だと思い込んで観ていたので面食らったというか、ラストにそれまでの物語は放棄されジャンルの変換が起こしている。三池崇史監督「DEAD OR ALIVE 犯罪者」(1999)を連想した。

死の疫病、死神、7つの部屋などの要素から「第七の封印」からの引用を指摘するレビューを見かけるが、どれも1842年のポーの原作に書かれているもの。ただし死神のルックスは同作と似ているので少しは影響を受けているかもしれない。

原作のあらすじを調べたら、本作のようなヒロインは登場せず、最初から幻想色の強い暗黒ゴシックのようだ。そこに”B級映画の帝王”コーマン監督がハリウッド流のストーリー性を加えた結果が”観やすいアート映画”たる本作となったと推測する。

一回観ただけなので怪作なのか傑作なのかも判断できないが、映像の美しさと、終盤のいきなり異世界に連れていかれたような感覚は強く印象に残った。

※ポー原作怪奇映画シリーズ全8作のうち最後の2作=本作と「黒猫の棲む館」(1964)はイギリスで制作され、それまでの作品と大きく毛色を変えている。

※ジェーン・アッシャーとポール・マッカートニーは1963~1968年の間交際していた。初期ビートルズの「オール・マイ・ラヴィング」(1963)、「アンド・アイ・ラヴ・ハー」(1964) 「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」(1966)などポールによる楽曲は、ジェーンをモデルに作詞された。

※ジェーン・アッシャーは後にイエジー・スコリモフスキー監督「早春」(1972)のヒロインを演じる。見た目の印象はかなり変化している。
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