SatoshiFujiwara

不安が不安のSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

不安が不安(1975年製作の映画)
3.9
テレビ映画作品にて劇場公開作に比べるとどぎつい表現はほとんど出て来ないけれども、しかしファスビンダー的ニューロティックさが溢れ出る。大体、この人の撮る映画に出て来る人々は、極めて普通に振る舞っていてもどこか精神的に危うい兆候を常に秘めているように見えるのだが、例えば冒頭でマーゴットとクルト夫妻が抱擁を始めるところを隣の部屋から顔を半分だけ覗かせて見ている娘ビビのシーンなど、どこか異常でかつ実に雄弁だ。

繰り返し登場するマンションから下に降りたマーゴットを上の階の窓から覗き見るショット。内1回は覗いている主体が窓の「さん」に手をかけているところが映し出され、それが誰だかは後になって判明するが(マーゴットの義理の姉。こいつがとにかく最低、本当にイヤ〜な顔つきなんですよ)これも気味が悪いし、マーゴットが鏡に映った自身の顔や幻覚を見るシーンでは画面が歪み、そこにペア・ラーベンのヤナーチェクみたいな木管の旋回音型を伴った妙な音楽が必ずセットで流れる。マーゴットが主観的に見た「世界の歪み」とごくありふれた日常の描写がほとんど差別化されることなく並列的に扱われているのが、逆に日常それ自体の危うさを浮き彫りにしてはいまいか。近所に住み必ずマーゴットと道で遭遇するバウアーさんも不気味だ(最後に自殺してしまうが、理由が全く提示されない)。

しかし、このマーゴットの理由の分からぬ不安(映画内では「統合失調症」と説明されるが、しかしその根源的理由は明らかにされない)に、どうしてもファスビンダー個人のそれ、または戦後ドイツの分裂的様相を読み込んでしまう。
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