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スペシャリスト 自覚なき殺戮者のKSのレビュー・感想・評価

4.0
ナチス・ドイツ政権下で行われたユダヤ人虐殺において、移送の責任者であったアイヒマンの裁判を実際の映像だけで構成したドキュメンタリー。


大学の時、授業を受けていた教授の田野大輔著『ファシズムの教室』で書かれていた
“命令に従うことで、責任を取らなくてよいとなった者は、自由を感じ残虐な行為ができる”というファシズムの構造を踏まえた上で本作を観ると彼の“自分は命令に従っただけ”という発言が決して嫌々やっていただけとは見れないようになってくる。

それは自分の身の回りの状況を考えても分かる事で、分業にすれば、自分のやっている事の全体像に関係なく責任を取らされる事はないからという思考の怖さが見えてくるなと思った。

ユダヤ人の中でも、ユダヤ人評議会などそこに序列があり、序列の高い者は助かっていることは、中々衝撃だった。


この裁判の風景を見ていたら、バレた事だけ認める日本の国会での政府答弁を聞いているようだった。技能実習生の問題などもこの裁判のように主導した人物は、分業のロジックで責任逃れをしようとするのだろうな。




本作の問いかけは、自分の身を守るためだったら人を殺してもいいのだろうかというもののように感じた。成人になることは責任を伴うことというが、それはアイヒマンのように自分を守るためにした行為でも、自分のした行いには責任を取らなければならないという事なんだろうなと思った。
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