レインウォッチャー

ステップフォード・ワイフのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

ステップフォード・ワイフ(1975年製作の映画)
3.5
この町の女たち、何かが変だ…

NYで活動していたカメラマンの卵・ジョアンナ(K・ロス)が、夫と子供たちと共に美しく閑静な郊外の町ステップフォードに越してくる。間もなく彼女は、この町に住む「妻」たちの誰もが異様なほど家庭的な専業主婦ばかりであることに気付く。

あの『ローズマリーの赤ちゃん』と同じ作家による小説が原作ということで、なるほど言われてみればその構成はほぼ同じと言って良い。

①引っ越しと家事でナーバス
②隣人がおかしい、夫もあやしい
③狂ってるのは周りか自分か?

というかんじ。
違うのは、暗躍する脅威の影が《悪魔教》か《男限定のクラブ》か、というところだけれど、いずれにしても「家庭という牢獄に囚われた女たちの恐れ」をオカルト的に戯画化(※1)している。結末も含めて、今作のほうがもっとリアルというか、あからさまではあるかも。

とはいえ、映画として今作ならではの見どころも多々ある。
たとえば、明るい昼間は輝いて見えるマイホームが、ひとたび夜に不信の影がはびこれば一寸先も見えない闇に包まれる…といったホラー的な光の演出。
'50年代の広告から抜け出してきたようなステップフォードの妻たちと、都会的でウーマンリブにも意識高めジョアンナとの、ファッションで見せるビビッドな対比。
それに、冒頭にNYの雑踏の中で見かける裸の女のマネキンを担いだ男の姿が、終盤への予言になっている…等。

'75年公開の今作は、その後'04年にN・キッドマン主演でリメイク(未見)されている。また、'22年には今作をほぼ下敷きにしたようなO・ワイルド監督の『ドント・ウォーリー・ダーリン』も記憶に新しい。

この半世紀ほどでフェミニズムは様々な広がりと浸透を見せたはずながら、アメリカの精神は「グッド・オールド・アメリカ」というファンタジーへの引力からなかなか逃れられない、ということだろうか。
昨今では、一部の女性たちの中で"トラッドワイフ(tradwife)"と呼ばれる揺り戻し現象のようなムーブメントもあるときくけれど、これもその一例なのかもしれない。

2023年の目でもうひとつ気付くのは、今作もまた『バービー』へ続く道の源泉なのだな、ということ。ステップフォードとバービーランドは本質的に同じ世界だ。今作は、劇中でその個性を殺して表面上クリーンに調整されつくした光景をディズニーランドになぞらえたりもしていて、なかなか鋭い。

『バービー』が作られた今、ようやく今作は「笑い話」になるだろうか。
…え?なんだかんだステップフォード、ちょっと住んでみたいんじゃないの、ですって?いやいやそんなことあるわけないじゃあないですか。ええ。まったくけしからんですな。ええ。(パンフを尻ポッケに突っ込みながら)

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※1:ジョアンナたちが、男たちの務める企業に疑いをもつ思考も興味深い。コンピューター会社や化学製品の会社など、外から見たら「何やってるかようわからん」不信感が演出されていて(男限定クラブの中身ない感もこの縮図だろう)、当時の空気感を窺い知ることができる。