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おとし穴のleylaのレビュー・感想・評価

おとし穴(1962年製作の映画)
4.2
安部公房/原作・脚本 勅使河原宏/監督
勅使河原宏の初長編作。
原作は「煉獄」。1960年にTVドラマになり、その後の映画化。

北九州で、流れの炭坑夫をしている男(井川比佐志)が、何者かに呼び出され殺されて、幽霊になってしまう。
誰が何のために彼を殺したのか。真相は暴かれるのか。

主人公は「生まれ変わったら労働組合のあるところで働きたい」とささやかな願いを語る。

シュールな話でありながら、過酷な労働下で働かされる炭坑夫たちの姿がリアルな映像で映し出されたり、社会的なメッセージも内包する作品でした。

とはいえ安部公房なので、タイトルのようにおとし穴にハマっていく不条理で不思議な世界。

夏のうだるような暑さ。
汗と泥と血。
誰もいない広大な炭坑町。
いるのは大勢の幽霊たち。
田中邦衛の白のスーツ姿。
佐々木すみ江の生々しさ。
井川比佐志の2役。
すべてを静観する子供。

安部公房の小説は、読んでいると現実と虚構がわからなくなっていく面白さがあって好きです。その世界観に没入していき、ふと突き放される。

今作も幽霊がいるのが当たり前のようになっていく感覚や独特な映像美にゾクゾクしました。
武満徹が音楽監督で、前衛的な音が作品の不穏さを深めている。

桜咲く清々しい日に、このシュールさは合わなかったけど。笑
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