おとし穴の作品情報・感想・評価

「おとし穴」に投稿された感想・評価

2007年4月8日、鑑賞。

勅使河原宏監督は、安部公房の原作を、何本も映画化している。

炭鉱で働く子連れの男(井川比佐志)が、厳しい仕事をしていると現場の人から「この写真は君じゃないか?」と聞かれて確かに自分が写っていると答えると、地図をもらった。
その地図の場所に行くと、白い服着た男(田中邦衛)に刺されて、泥まみれで殺される。

その後、殺された男の肉体は死んで倒れているのだが、幽霊が透明感をもって起き上がる場面の特撮は見事である。勅使河原監督の映像美。

殺された男は、他の男(井川の二役)と間違って殺されたという不条理な物語。この後も、話は続くのだが、勅使河原監督は本作のようなシュールな映像美を追求していたのだろう。

この映画もまた、勅使河原監督作品、傑作の一本である。
日本人で最も好きな映画監督のひとり、勅使河原宏の初の長編作品。今回で見るの5回目。この人の映画はホントすごい。前衛的な作風で有名やけど、アバンギャルドでありながら難解さがなく、分かりやすいし、娯楽要素も豊富。まがまがしい異世界感に満ちた映像がどのショットもたまらなくカッコいい。今作はまさにタイトル通り、冥界というおとし穴にはまり込んでしまった名もなき人々の声なき叫びを、見事にヴィジュアライズした大傑作。オープニングのタイトルコールからヤバすぎ。不気味なホラー映画のような鳥肌モノの音楽をバックに、画面全体に一文字ずつ「お 」「と 」「し 」「穴」のタイトルが出て来た時点で、シビレルーーー!!! 労組のある会社で働くことを夢見る貧しき名無しの権兵衛が、ひどすぎる労働条件の炭鉱から脱走して放浪していたある日、廃鉱のため空っぽになった山村でちょっとした仕事があるからと、ひとりそこに呼び出される。で、行ってみると、どういったわけか、とつぜん全身白スーツに身を包んだ謎の男に殺されてしまうというショッキングなはじまり。この白スーツの男が実にコワい。若い頃の田中邦衛が演じてるのだが、まったく血の通っていないマシーンのような殺し屋で、何らかの計画に基づいて、狂いなく殺しを実行していってる様がめちゃめっちゃ不気味。殺される権兵衛くんは、井川比佐志。この人も素晴らしい味わいで、ブチャイクで粗野だが、どことなく色気があって、体躯もよく、現在の爺さん姿しか知らないとちょっと驚き。で、殺された権兵衛がひゅーっと逆回しのように立ち上がる、殺される前の状態をすべて引き継いで、永遠にその状態で存在しゆく幽霊となって。一体あの白スーツの男は何者なのか、なぜ自分は殺されなければならなかったのか。やりきれない思いを少しでも晴らすために、その原因を追及しようとするのだが、背後に社会構造的陰謀が絡んでいることがぼんやりと浮かび上がってくる。幽霊になってもあっけらかんとしてる男の様子がコミカルで、笑ってまうシーンもありつつ、いつも通り目の前にある現実世界にまったく何の働きかけもできなくなる、恐ろしいほどの剥離感と絶望感が描かれる。わけがわからんたい!と叫ぶ主人公の気持ちはまさに、常に巨大な構造に搾取される労働者たちが、無意味な死に呑み込まれてゆく悲痛な叫びに聞こえる。そんな生活を送ってる人たちは自分の生存に必死、社会の不正と戦ってる人たちはまさにその不正によって消されてしまう、という、すごく社会的なテーマを、センス良すぎな不条理寓話に仕立て上げた監督、安部公房、武満徹などなどの才能! 最高! 拒絶感に満ちたカッコよすぎる映像、コワいコワい音楽、巧みな脚本、何もかもがすばらしい。途中から出てくるオバはんの存在感とセックスもすばらしい! 最後のガキンチョの涙も、駆け抜ける姿も! 素晴らしい! 今後も何度となく見ていくことでしょう。
TsutomuZ

TsutomuZの感想・評価

3.6
死人を活ける、生け花花道の映画監督勅使河原宏。

黒澤清の映画かと思うほど現代的ではあるが、あの時代の風景を記録した、まさしく亡霊の映画である。

田中邦衛はノーカントリーの殺し屋。
Takada

Takadaの感想・評価

4.5
大好きな映画なので、スクリーンで観れると知り再見。
オープニングからのバキバキにカッコいいショットの連続です。
imapon

imaponの感想・評価

4.0
不覚にも冒頭で少し眠ってしまった。目覚めればそこはもう不条理な前衛な世界。漸く井川比左志が2役+幽霊の4役と認識してから最後まで最高に楽しめた。
モノクロ美は夏が最も映えるな。
坑夫のひきしまった身体に流れる汗。
駄菓子屋の女のシミーズ。

今回の特集、未見の本作のみとしようと思ったが、いきなりこんなの見せれたら他の3つも再鑑賞したくなる。
ラピュタ阿佐ヶ谷で連続上映が始まった「アヴァンギャルド・ニッポン 安部公房×勅使河原宏」で観賞 。1962年の作品で、監督の勅使河原宏にとってはこれが長編劇映画第1回監督作品になる。確かに、いまから半世紀以上も前につくられたということを考えれば、この作品は「アヴァンギャルド」だ。

原作は、この作品以降、「砂の女」、「他人の顔」、「燃えつきた地図」と勅使河原宏とタッグを組む作家の安部公房。彼がテレビドラマのために書いた「煉獄」という脚本をもとに、さらに映画のために安部自身が脚本化。これを勅使河原宏が監督している。

この作品の「アヴァンギャルド」なところは、勅使河原の展開する斬新な映像美にもあるが、安部が書いた奇妙な設定の脚本にもある。最初、リアリズムで展開されていた物語が、途中、「幽霊たち」の出現により様相を変える。とは言っても、そこは安部公房、ファンタジーに流れることはなく、リアリズムの中に「幽霊たち」を確固と存在させているのだ。

どういうことかというと、「幽霊たち」は人間とは言葉を交わすことができず、しかもその存在も人間たちに認識されることはない。生きている人間と「幽霊」が同一画面上に配置されているのに、両者は交わることがないのだ。「幽霊たち」どうしでは話すことができるのだが、彼らはあくまで物語の外に置かれ、展開される物語を傍観するのみなのである。

物語の中盤、主人公が殺されるのだが、彼から「幽霊」が分離して、自分がなぜ殺されたのかを追及し始める。「幽霊」であるから、かなり自由に空間移動して、自分を殺した男を追う。とはいえ、「幽霊」は現実の物語にはいっさい影響を及ぼさない。「幽霊」はただ眺めているだけなのである。

とはいえ、「幽霊」が語るモノローグは、自らの「殺人」を解き明かし、自分が陥った「おとし穴=謀略」を知ることになる。基本的には、九州の炭鉱を舞台にした資本家と労働者の支配被支配の物語ではあるが、「幽霊」が語る言葉はつねに民の声として機能していく。この構造が絶妙だ。「幽霊」という奇策を用いながらも、リアリズムを外さない安部公房の叡智とそれを見事に映像化している勅使河原宏との絶妙なコンビネーションが、すでにこのコンビ結成の第1作から、強烈な印象を持って放たれている。

また、「幽霊たち」の視線を補完するかのように用いられる、主人公の息子の視線もまたサスペンスを盛り上げる意味では、効果的に随所で使われている。そして、その子供の視線は、「幽霊たち」が感じさせるものよりも、むしろ強烈な印象の恐怖を感じさせるから不思議だ。

音楽は、武満徹が一柳慧と高橋悠治を率いての豪華版。モノクロームの映像とシンクロして、ハイクオリティな映像空間をつくりあげている。本作品は初見だが、次週からの「砂の女」、「他人の顔」、「燃えつきた地図」は遠い昔に観賞。上映が楽しみだ。
武満徹の音楽、大人達を傍観する子供の目、殺し屋の白い手袋と革の鞄。
小学生の時夏休みとかに観てトラウマになりたかった。
okimee

okimeeの感想・評価

4.5
勅使河原宏は、ほかは砂の女しかみたことないけど、
日本のいや〜な夏と汗を描かせたらこれ以上の人はいないんじゃないかな。。

話も映像もめちゃくちゃおもしろいし、、、

最後、子どもが駄菓子屋から駆け出すシーンは最高としかいいようがない。。

そして音楽は武満徹
若い田中邦衛が、それ以上ないはまり役で妖しさ満点。


クーラーの効いた寒すぎる劇場から外へ出た時の 暑さと熱気と眩しさ までがワンセット
smmt705

smmt705の感想・評価

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ちょうどお腹を空かせて観てたから、あ、ご飯食べなくちゃと思った。何の解決もされない殺人は妙に納得で、映画のほんのわずかな時間で解決する訳ないんだから、と腑に落ちた
戦後の炭鉱の、陰気であり生と生が火花を散らしてぶつかり合うような危うさが印象的だった。田中邦衛の殺し屋と共に子どもも不気味。
幽霊の描写はユーモラス。全体的に不条理で「?」がずっと残るような作品。
武満徹が音楽監督となって作られた音楽は前衛的だが原始的だった。
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