えいがドゥロヴァウ

プレイタイムのえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

プレイタイム(1967年製作の映画)
4.8
ジャック・タチさん
僕、1度目に鑑賞したときは何も分かっていなかったとです
すんばらしい映画
巨大なセットで街そのもの(タチヴィル)を作り上げて膨大な制作費を注ぎ込みつつも
興行が失敗してしまった作品

冒頭の空港ではグレーの色に統一された衣装や空間のなかで
赤いアイテムを持った人物が何人もフレームインします
これは視線の誘導をせずに何を観るかを観客に委ねますよというメッセージのようで
後の大見せ所であるレストランのシーンにも繋がってゆきます

オシャレだけど機能的でないオフィスに面接を受けに来たユロ伯父さんと面接官との愉快なすれ違いや
ショーウィンドウのようなプライバシーだだ漏れの「モダン」な高級マンションのシーンを経て
後半ほぼ1時間を割いた狂騒のレストランですよ

僕はこのレストランのシーンがとにかく大好きです
それまではグレーや黒の抑えた色使いで
街の人たちは秩序だった行動をしていましたが
それは裏を返せば受動的で画一的(機械的)だったと言えます
それが内装工事が完了しないまま営業初日を迎えたレストランが客で埋まり
ユロ伯父さんが誤ってエントランスドアのガラスを粉々にしたのを契機に
もうカオス
徐々に綻んでいた秩序も粉砕します
バンドが演奏するアップテンポなジャズに客は躍り狂い
ドレスコードそっちのけの招かれざる客(酔っ払いやヒッピー)もなだれ込み
店内は雑多な色彩でギチギチ
壁は剥がれ落ちるわ照明は爆ぜるわ
追い出された客も店を指し示す矢印のネオンにつられて逆戻り
そんなこんなでめちゃくちゃになりながら
とっても寛容で幸福な熱気に包まれるのです
それまで周囲に翻弄され続けていたユロ伯父さんも
ようやく安寧を得ます
驚くべきは、ジャック・タチがこの空気感を完全なるコントロールでもって演出しきっているということでございます

狂乱の夜が明けたあとは街並みの様子も一変
あぁ、これは人の不条理を礼賛する人間讃歌なのだと
最高の後味で幕を閉じます

この映画は何だか新歓コンパのような映画ですね
最初はおとなしく畏まっているけれど
酔いが回り徐々に壁がなくなり
盛り上がって
何が何だか分からなくなって、と
まぁそこから清々しい朝を迎えられるかは個人差ありですがね
緻密に計算されていてエスプリの効いたコメディ
もはや洗練されすぎていて笑うというより唸ってしまうような
積み重ねや天丼(同じネタを繰り返すやつです)の技巧

はぁー大好き