このレビューはネタバレを含みます
鋭い人間洞察力により現実社会を切り取り断片化し映画というフィクションとして再構築してきた初期ハネケの集大成ともいうべき作品。ハネケがフレーミングするのは現代社会の陰ではなく、むしろオムニプレゼンスな空気のようなもの。その透明性は脆弱な人間たちのサイレントな要請として社会が恣意的にフィルタリングしてしまったものだ。
本作はハネケとしては珍しく寓話的な舞台上で物語られている。食糧危機且つアナーキーめいた過酷な状況下で"文明人"はその浮雲な倫理観をどこまで保持できるのか。非日常という舞台装置によってより顕在化するコミュニケーションの不可能性。その絶望と希望の両端を冷徹な視点から提示する。