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ベンジャミン・バトン 数奇な人生のmatchypotterのレビュー・感想・評価

3.8
本当に“数奇”な物語。
1910年代から時間の流れはそのままに、“普通の人”とは“老い方が真逆”の人生を送る主人公ベンジャミンが、“老いから始まり若返りながら、置いていく普通の人とのすれ違っていく”。

デヴィットフィンチャー。
まさに“奇才”が放つ映画とはこういう作品のことを言うんだとまざまざと見せつけられる感じ。

観るのは2回目だが、初めて観た時の衝撃というか、物理的な設定はわかっていても、なかなか頭がついていけない奇妙な感覚に陥る。

ブラピとケイトブランシェット。
この2人の若返りと老いていくメイクと視覚効果、ずば抜けてる。

そして、老いてるのに子供のベンジャミンの演技というか、成長と価値観、見た目と中身が先天的に真逆の彼を演じ切るブラピの風格がスゴい。

中身が赤ちゃんで見た目はおじいちゃんのベンジャミンが、拾われて老人介護施設で他の老人と戯れたり、おじいちゃんの彼が出稼ぎに出て社会勉強や第二次世界大戦を経験したり。

そして、人生経験もひとしきり、の頃になると、彼はどんどん若返る。人が歳と共に、若さの代償で得る様々な経験。成功と失敗。栄華、衰勢。

彼も同様にその様々な経験をし、成功と失敗の果てに、人とすれ違っていく。

そんな数奇な人生の紆余曲折の一部を共にするケイトブランシェット。

彼女がベッドの上で、彼からのかつての手紙を娘に読んでもらいながら回想するスタイルと、常にブラピがその手紙をナレーションしながら胸中の思いを吐露するような話の進み方が主観と客観が織り混ざってて良い。

その雰囲気が、彼にとっては普通で、周りにとっては真逆。
明らかに彼だけが逆行してるのに、彼から見れば他がおかしい。

その辺の、どうしても相容れない矛盾や違和感をそれとして描きながら、共存させる。

そして、この数奇な人生を、ちゃんと始めて終わる。

最初の赤ちゃんの見た目に驚きつつ、若返りながら若さ溢れるブラピのカッコ良さに憧れる。ちょっとこのカッコよさは尋常ではない。

もともと人は赤ちゃんの時も老いてからも、人の手を借りないと生まれてこず、育たず、そして、生きていけないようになる。

しかし、赤ちゃんのように純粋無垢なヨチヨチおじいちゃんとも違うし、おじいちゃんのようにヨボヨボで認知症で赤ちゃんもいない。

すれ違うことがモノの見方を変え、出会いも、そして別れも、人とは違う人生と価値観と記憶と記録を残す。

ファンタジーなのに、夢や理想というより現実的なことの方に目がいく作品。
ベンジャミンの“数奇”な生き方が、逆に“普通さ”の尊さを浮き彫りにしてくる不思議な物語。


F:1941
M:142302
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